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episode.1 さよなら、初恋
「あー、やなもん見ちゃった。目の消毒、消毒」
足組みをして窓の外を覗く比茉里ちゃんが、ぷいっと視線をノートへ移す。
校庭から生徒たちの賑わう声が聞こえてきた。次に体育授業のあるクラスが出て来たのだ。
比茉里ちゃんを不機嫌にさせた正体がいた。藤波宗汰。黒い前髪が切れ長の目を隠して、少し近寄り難い雰囲気を醸し出している。
「結奈ちゃんも、見ない方がいいよー。アイツは猛毒だからさ」
「えっ、見てないよ」
白い体操着へ向けていた眼差しを、慌ててノートへ戻す。少しだけ物足りない顔をして。
高校生になって、初めて言葉を交わした男子が藤波くんだった。1年の時に同じクラスになってしばらく、彼は後ろの席に座っていた。まわってきた伝言を回すだけの会話だったけど、とても緊張してドキドキしたことを今でも鮮明に覚えている。
いつも気付くと目で追っていて、密かにずっと憧れだったりする。
「ああー、浄化された。2組もいて助かった。悪いこと言わないからさ、藤波はやめた方がいいよ?」
「……えっ、ちが……」
「ちが?」
「……うん。そうだね」
比茉里ちゃんとは1年生からの付き合いで、一番仲良が良い親友。そして唯一、私が藤波くんの事を気になっていることを知っている存在。
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