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腕に絡みつくメルーシナの細い腕。僧衣を握りしめる小さな白い手。触れた場所から流れ込む〈気〉が、甘く蠱惑的な蜜のようにシウリンの中枢神経を冒していく。シウリンは蜘蛛の巣に絡めとられた蝶のように身体の自由を失い、冷静な判断力も、見習い僧侶としての自身の立場も、全て溶かされていくようだ。
「だから……大きくなったらわたしの旦那様になって欲しいの。約束して?」
〈気〉となった甘い蜜に体中を冒されながら、シウリンがかろうじて、言った。
「まだ、会ったばかりですよ。そんな約束は、簡単にしてはいけません」
メルーシナの声が少しばかり不満を孕む。
「そんなことないわ。一目見たらわかると、お母様は言っていたもの。わたしは、一目でわかるのよ。旦那様になるべき人が。……ね、シウリンは、〈王気〉があるでしょう?」
「……視えるのですか?」
〈王気〉とは東西の二つの王家の血筋にだけ現れる、金銀のオーラのこと。普通の人間には視えないが、ごくまれに、〈王気〉を視認する能力を持つ者がいる。少女には、〈望気〉の力があるらしい。
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