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「それはね、わたしが大きくなったら旦那様にあげる指輪なのですって。……だから、シウリンにあげるわ」
あっさりそんなことを言われてシウリンは慌てた。
「ええっ!それは、すごく大事な指輪じゃないですか!簡単に人に渡してはいけませんよ」
「でも、シウリンはわたしの旦那様になってくれるって、さっき約束したじゃない」
「いや、でも……まだお母様のお許しをいただいていないでしょう?」
「お許しはいらないの。もう約束したから、シウリンのものよ。……それに、わたしが持っていたら、また落っことしちゃうわ」
先ほどメルーシナの額にキスしてから、シウリンは少し冷静になっていた。幼い少女と見習い僧侶の結婚の約束など、大人たちの思惑の前には何の意味もなさない。〈純陽〉として生きることを定められたシウリンの運命も、シウリン自身の意志ではどうにもならない。
尼僧院に彼女を預けたら、シウリンはすぐに僧院に帰り、メルーシナとは二度と会うことはない。
そう自覚すると、身を切るほどの哀しみがシウリンを襲う。
でも、それは仕方のないこと。たとえもう二度と会えなくとも、彼女はシウリンの唯一無二なのだ。
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