0-3 約束の指輪

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「……しょうがありませんね。でも、後で一度お返ししますから。今は眠ってください。ね?」 「ん……」  人形を抱きしめたまま、再び眠りの世界に入っていくメルーシナに、シウリンの頬は思わず弛む。いつしか日はとっぷりと暮れてしまったが、幸いにも森は抜けた。ふと顔をあげると、視界のはるか先に、目的地の尼僧院の門番小屋の灯りが見えた。シウリンはほっと息を吐く。  あの灯りの下に行きつくまでが、シウリンとメルーシナに残された時間だ。背中から伝わる体温と少女の息遣い、そして、ふわりと揺れる白金色の髪の香り、それを一歩一歩噛みしめながらシウリンは歩いた。  あまりにそれに集中していたために、シウリンは指輪のことをすっかり忘れてしまっていた。
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