面接官は何人いますか?

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 私がこの時間に出社しているのは、誰にも邪魔されずに仕事ができるからだ。  ――前の職場に勤めていて唯一よかったと思えるのは、この習慣ができたことくらいだろう。  電話もメールも来ない、同僚の愚痴も聞かなくていい。煩わしさのない環境。この朝の二時間ほどの時間が私にとっては一番居心地よく集中できる。 「誰だろ?」  こんな時間にメールを送ってくるような人物に心当たりはなかったので、不思議に思いつつもカーソルを合わせる。まあ、会社にいる必要はないもんね。在宅勤務で家から送ってきているのかも。  もう一口飲もうかとマグカップに手を伸ばしていた私は、動かした視線の先の送信者名に動きを止めた。 「え」  思わず声が漏れる。何度瞬きを繰り返しても目の前の文字は変わらない。 「うそでしょ」  画面の中に入り込みそうなほど顔を近づけていたことに気づき、慌てて背筋を伸ばすと同時に指を動かした。  パッと明るくなった画面に並んだ文面を確かめ、もう一度右下の数字へと視線を向けた。開けたばかりのパソコンをシャットダウンさせて、カバンの中身を確認する。頭の中に目的地までの最短経路を浮かべ、机の下に常備している三センチヒールのパンプスへと履き替える。半分も減っていないコーヒーを机に残して、私は数分前に通ったばかりの出入り口へとダッシュした。
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