面接官は何人いますか?

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 ――正直、顔はうろ覚えだった。  ちゃんと話したのは転職活動中の最終面接だけ。広い部屋に置かれた長机に並んだ三人の面接官。私は部屋の中央にある椅子に座り、飛んでくる質問を必死に打ち返していた。一対一なら多少の息継ぎもできるけど。一対三では頭は常にフル回転状態を要求される。三、といっても質問をしてくるのは両端のふたりだけで、真ん中に座っている男性はニコニコと私の様子を見守っているだけだった。  三人の中で一番年上。後ろに流すように整えられた白髪。初老ともいえる見た目。明らかに役職についていそうな雰囲気。  された質問はたったひとつだけ。  それが最後の質問だった。 「あなたの目の前に、面接官は何人いますか?」 「は、……」  受け答えにはまず「はい」という返事から、が染みついていた私は反射的に口を開いたけれど、予想外すぎる質問に声は途中で突っかかってしまった。  ――え、面接官の人数?  質問を聞き間違えただろうか。  聞き返したほうがいいだろうか。  私はフル回転状態の思考を必死に働かせる。 「……」  目じりの皺を深め優しく見せているが、正面の視線は私の瞳をしっかりと捕らえている。  なんとなく、そのまま答えた方がいい、という予感がした。  ここまでの受け答えはほぼ完ぺきだったという自信がある。いまさらこの一つの答えでどうにかなるわけでもないだろう。私は不安を抑え込んで息を吸った。
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