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自分のPCを抱え、榛名のあとについて会議室に入る。男性が一人、もうすでに席についていた。椅子の上で三角座りをした野生児のような座り方だ。いのりと目が合うと、彼は「にへらっ」と音がしそうな顔で笑った。
「おはよ~。のりたまちゃん、元気してる?」
鵠沼夏生(なつき)、三十八歳。この、つねにジーンズで出勤するゆるい男がこの会社の社長だと知ったとき、いのりは驚いたものだ。いのりの知る企業の社長というのは、もっとお堅くて近寄り難くて、そしてもっとちゃんとしていた。少なくとも、三角座りで会議に参加することはない。
「のりたまちゃん? なんですか、それ」榛名が不思議そうな顔をする。
「『たまくらいのり』だからのりたまちゃんって呼んでるんだよ。かわいいでしょ」
「……社員におかしなあだ名をつけるのはおやめください」
「榛名くんのことはちゃんと呼んでるじゃん」
榛名は迷惑そうな顔をしたが、それ以上は何も言わなかった。
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