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二
女の子は笑った。
「正直ものだねえ、君」
ばかにしたようなもの言いに、ぐっと握り拳を作る。
「なんだよ、悪いかよ!」
叫ぶが、辺りの喧騒にすぐかき消されてしまった。女の子は変わらず笑っていたが、ふと、まっすぐにこちらを見た。
そのまっすぐすぎる目に、ひゅうっと空気が抜けていく。
「私もね、嫌いなんだよ。クリスマス」
やけにはっきりと聞こえた告白。ぽかん、と女の子を見ていたら、また笑われた。
「私、マシロ。よろしくね」
そっと差し出された手。渋々掴むと、ひんやりとしていた。手袋をしていたわりに、氷みたいだ。
「……僕は、ダン」
女の子――マシロは、優しく笑って「ビャクダンのダン、かな?」と聞いてきた。
「びゃく……?」
「白檀。植物の名前なんだけどね」
別に忘れていいよ、と付け加えてまた笑った。僕は首を傾げたけど、でも忘れないようにしよう、と思った。
ひゅうっと風が通り過ぎて、僕とマシロの前髪を揺らしていく。
「ところで、君一人なの?」
その質問に僕はぐっと唇を噛んで、俯く。でも、言った。
「……家族から、逃げてきたんだ」
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