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いつも通りのホームルームが終わり、帰りの挨拶をすると、部活動がある生徒は荷物を持って活動場所へと向かう。美星もその一人であり、教科書や期末テストの解答用紙が入った鞄を片手に美術室へと急いだ。
ちなみに海月は運動神経が良いのもあり、女子バスケ部に所属している。美星は彼女を美術部に誘ったのだが、どうやら椅子に座って絵を描くより、体を動かすスポーツの方が彼女は性に合うようであった。美星は運動が嫌いという訳ではないが、特別好きでも得意でもない。
美術部の部室である美術室は、学校の南校舎の四階にある。美星や海月のクラスである1年3組の教室は北校舎の二階。長い廊下を歩いたり急な階段を上ったり、部室に行くまで一苦労だ。
だが美星は、美術室の独特の雰囲気や特有の匂いが好きだった。窓から暖かい太陽の光が降り注ぐ、静かで穏やかなあの空間に居ると、心が落ち着くし絵を描く事に集中できる。それに、絵の具や画用紙の匂いを嗅ぐとほっこりと幸せな気分になれる。何より美術部が、絵が大好きな証拠だ。
ようやく南校舎の四階に辿り着いた。荷物は廊下に置かれている長机に置く事になっている。美星はちょうどその長机に荷物を下ろしている、銀髪のボブヘアーの女子生徒に気が付いて声をかけた。
「白鷺さん。こんにちは」
「あ、橙山さん…。こんにちは…」
彼女は白鷺 真子という。美星と同じ1年3組の女子生徒であり美術部員だ。
出身小学校が違い、他人に対してよそよそしくどこか壁がある真子とは、今まで美星は特に関わった事がなかった。引っ込み思案で声も小さく真子とは、意思疎通がしづらいということもある。
橙山とは美星の苗字だ。この苗字の通り、夕焼け空のように明るく派手な橙色のセミロングヘアーと瞳をした美星は、美しい透き通った白銀色の髪とアイスブルーの瞳を持つ真子が少し羨ましくもあった。真子は美星と同じくらいかそれ以上に絵が上手く、仲良くなれたらなぁと美星は思うのだが、定期的に挨拶したり話しかけてみてもなかなかうまくいかない。その割に真子は、出身小学校が同じ生徒とは仲良く喋っている印象がある。やはり小学生であった六年間を共に過ごしたという事実は大きいのだろう。なら一緒に過ごす時間が増えれば、いつしか彼女は美星にも心を開いてくれるのではないか。美星はそう少し期待しながら、真子に訊いた。
「今日から部活何するのかな?私気になっちゃって」
「えっと…先生からちょっと話を聞いたんだけど、クリスマスの絵を描くらしいよ…。じゃあ私、先に部室入ってるね…」
成程、クリスマスの絵か。確かにもう一昨日から12月だもんな…と美星が納得している間に、真子はそそくさとペンケースを持って美術室へと入っていってしまった。どうにも避けられているような気がする。美星は真面目で几帳面な一方、明るい方だしいつも前向きな性格だ。素直で真っ直ぐとも言える。それなりに社交的だし、色んな子と仲良くなりたいと思っているのだが、真子とは難しそうだ。
「気にしてたってしょうがないよね。ささ、私も早く行かなきゃ」
ポジティブにいこう、いつか仲良くなれるはずだ。そう思って、美星は長机に鞄を置いてペンケースを取り出すと、真子の後を追って部室に入った。
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