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「こんにちは!」
美術室に足を踏み入れて美星が元気よく挨拶すると、顧問の美術教師である彩藤が微笑みながら「こんにちは」と返した。
彩藤は今年この学校に着任したばかりで、社会人二年目の弱冠25歳にして、絵や工作など美術に関するものなら何でも完璧にこなす。いつも冷静沈着で落ち着きのある性格をした、美星の憧れの男性教師だ。絵の具やインクのついたエプロンが様になっている。地毛だという色素の薄い亜麻色の髪や整った目鼻立ち、高い身長が大人の余裕を醸し出しており、どうやら女子生徒からの人気が高いらしい。だが美星は、彩藤をそういう目で見た事はない。それどころか美星は、今まで恋をしたことがなかった。というのはさておき、美星は彩藤に訊ねる。
「先生。さっき白鷺さんから聞いたんですけど、今日からクリスマスの絵を描くんですか?」
「ええ、そうですよ。もう12月ですからね」
「ですね~。私ホント実感が湧かなくて。それにしてもクリスマスの絵かぁ…何描こっかな~」
美星は腕を組んで悩む素振りを見せたが、その表情は実に楽しそうで生き生きとしている。そんな彼女に彩藤は、あくまでいつも通りの普通の口調で、これから先美星が苦しむとは知らずに、言葉を付け加えた。
「一年生同士で各々の意見をまとめて、一つの案に決めてくださいね。今回は今までの活動とは一味違うんですよ。学年での共同制作です。締切は12月22日。23日は水曜日なので部活はお休みです。完成品はそれぞれの学年の階段の踊り場に、24日のクリスマスイブと25日のクリスマスの二日間、掲示しますからね」
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