知らぬが花

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 いきなり投げられた辛辣な言葉に、良夫は辟易したが顔には出さずに振り返った。 「奥様、お招きありがとうございます」良夫、渾身の営業スマイル。  昔はさぞかし美しかったんだろうと想像できる初老の女性が立っていた。 恐ろしい形相で祐奈を睨んでいるが、今も迫力のある美人ではある。  その人が、良夫の笑顔に見惚れ一瞬頬を染めた。 祐奈は、それを見逃さず、勇気を振り絞り挨拶した。 「お母様、お久しぶりです。今日はお招きありがとうございます」 ところが間髪入れず、 「あんたを呼んだ覚えはないのよ。とっとと帰りなさい!」  初老の女性は吐き捨てるように、祐奈に言葉を投げつける。 祐奈は、下を向いたまま感情を抑えているようだ。肩が震えているのは、泣いているのかもしれない。 「ママ、そんな大きな声をだして何事?恥ずかしいわよ」  祐奈と同じくらいの女性が男性を伴って入ってきた。 「あら祐奈、来てたんだ。パパが呼んだの?」 「冗談やめて、どんな嫌がらせなの! せっかくの私の誕生会に」 「ーー失礼しますっ」  祐奈が小走りで出て行ったので良夫は、 「失礼しました。それではこれで」と出て行こうとしたが。
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