知らぬが花

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「はい、失礼します」電話が終わった幸代。受話器を置くと大きなため息をついた。 「姉さん、今の仕事の依頼?……じゃないか」 「うん。テレビで良子を見た人が是非あんたをお嫁さんに欲しいって」 「やだ……また?」  真琴が呆れた顔をする。先程から何件かの仕事の依頼が入っているが、合間にそのような内容の電話も来ている。 「あの美貌ですもんね……」  真琴は年頃の娘だからか、モテる良夫を羨ましげに見る。  良夫は、カメラが回ってないと思っていた。それがどこから撮っていたのか良子のコケティッシュな舌ペロが全国放送されてしまったのである。 「だって、あのチャーミングな笑顔は、相当破壊力あったし」 「役になりきるのは自信があるのよ、うふっ」 「そういえば田代さんが事務所に来た時も、良子の正体を知って唖然としてたわね」  幸代は、インタビュアーの女性、田代さんが来店した時のことを思い出していた。  良夫が役になり切る自信があるのには、理由がある    良夫は数年前まで、売れない役者をやっていたのだ。  何事もなければ今でも続けていただろう。
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