知らぬが花

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「お待たせしました。田代さん」  良夫が、待ち合わせ場所の駅に着くと、すでに田代祐奈(たしろゆうな)が来ていた。あの、女性インタビュアーだ。  今日の良夫の仕事は、田代さんのレンタル彼氏。 一緒に出かけて欲しいところがあるそうだ。だから、良夫もそれに見あった格好と役作りをいている。 「ここからタクシーでよかったんですか?」 「最後までは、いたくないの。早々に失礼するつもりなので」  二人は並んでタクシー乗り場まで歩く。週末、昼前のこの時間、道ゆく人は休日をのんびり過ごしているようだが、田代さんはどこか緊張している様に良夫には見えた。  タクシーは運よく止まっていたので、すんなりと乗ることができた。 「ーー一丁目までお願いします」  高級住宅街だ。  打ち合わせで田代さんから聞いたのは、お世話になってるプロデューサーの家でのランチ会がある。 良夫は「コロナ禍でそんなことするのか?」とツッコミを入れた。世間にはいろいろな都合があるようで、田代さんも断れなかったそうだ。  何か訳ありのようで、良夫に彼氏のフリをしてついてきて欲しと頼まれた。二時間のレンタルで破格の金額を提示されたら断る理由はない。
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