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タクシーが到着して、田代さんの横を歩く。
「……女主人が苦手なの……怖くて」
田代さんがポツリと呟く。笑顔も消え、溌剌とした若さが影を潜めている。
良夫は田代さんの彼氏を全力で演じることに決めた。
「大丈夫、祐奈には俺がついてるだろう?」
良夫が祐奈の背中を軽く抱くと、祐奈は小刻みに震えていた。いったい何をそんなに恐れているのか。
道は塀が続いていた。途切れたところに門がある。
「ここかい?」
「ええ」
立派な門構えだ。かなりの大物なんだろう。
しかし、良夫の肝は座っているので、演じることに集中するだけだ。
お手伝いさんに案内され、奥へ進むといい匂いが漂ってきた。
セッティングされていたのは、テラスだ。コロナに配慮したのだろうことが見て取れる。
しかし、客はいない。後ろから声がした。
「この泥棒ネコ。恥知らず。のこのことよく顔を出せるわね」
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