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令和20~30年 回想 多部千夜 旧姓 風池千夜③
さて、見合いという場で、面と向かって話すと驚くほど簡単に千夜の嫌悪は払拭された。
今まで、遠くから礼人の側面しか見ていなかったのだ。
近くで礼人を正面から見て話した、文字通り角度を変えて話をした結果。二人は驚くほど息が合った。
傍目にはそうは見えなかったかもしれない。
けれど、当人同士にしてみると互いにやりやすい相手だった。
千夜は、何かものをしゃべる時に一拍おいて人の目を見つめる癖があり、人との交流においてそのテンポのギャップが枷になっていた。
礼人はというと、元々沈黙が気にならない質であったし、ネットでの文字での交流に疲れ、言語以外の表情やそれこそ目の動きなどを読み合うコミュニケーションに飢えていた。
結果、傍目には言葉少なく盛り上がりに欠けるが、当人同士では望んだテンポで望んだコミュニケーションをとることができた。
それに、礼人は千夜の祖父を厭うことがなかった。
なんならデートに祖父を同行させることもあった。
デートの際にたまたま立ち寄ったハンバーガー屋で祖父が、
「こんな弱弱しい炭酸なぞは、コーラとはいえん!」
などとだだをこねても、嫌な顔一つしなかった。
笑いながら自分のウーロン茶と交換して、そのままコンビニで真のコーラを探す旅に同行した。
二人のテンションの高さに、千夜の方がおいて行かれることが多かったくらいだ。
そうやって、ダラダラと3人で同じ時間を過ごし、一緒にいるのが当たり前になって、礼人の方から結婚を申し込んだ。
その際に、千夜と祖父の前で礼人は自分がユーチューバーであったことと民雄を退職に追い込んだ件を告白した。
「自分はネットで人の人生をボロボロにした最低の人間だが、それでも受け入れてほしい」
そう言って頭を下げる姿は、痛々しかった。
千夜は、そんな礼人を見て自分が支えてあげたいと思い、結婚を了承した。
そもそも、当時の礼人に悪意がなく、被害者と言えるであろう民雄が全く気にしていないのだ。
部外者の千夜達が何かを言えるわけでもない。
千夜がそう言うと、礼人は苦しそうな顔をした。
「この件が掘り起こされれば、俺の身内はいっしょくたに加害者にされる。
先生がどう思ってるかじゃないんだ。
それに、別の件で俺は炎上を起こして黒アカになってる。
ネットにおいては書き込みをする人間が、どう叩きたいかが重要視されるんだ」
おかしな風潮だと、千夜も祖父も思った。
けれど、ネットとはそういうものなのだろうとも思った。
なによりも、礼人自身が炎上という形でそういった制裁を受けた張本人だ。
実際にあったことを否定することはできない。
だから、千夜はそういったリスク込みで礼人と結婚することを決めた。
何かあっても二人なら乗り越えていける。
結婚式でのお決まりの言葉だ。
健やかなる時も
病める時も
喜びの時も
悲しみの時も
富める時も
貧しい時も
愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い
その命ある限り真心を尽くすこと
それを誓った。
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