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令和30年 葬儀場周辺自販機及びインターネット上
法太郎がアップした動画は、ものすごい勢いで拡散されていった。
法太郎自身が名のあるユーチューバーだったし、喪服でたたずむ千夜は美しかった。
なによりも、視聴者は娯楽に飢えていた。
『おくさんかわいそー』
『ご冥福をお祈りします』
『唇よめた。ありがとう。だ。泣ける』
『奥さんがんばれー』
次々と送られてくる暖かいメッセージに、法太郎は思わず頬を緩めた。
やっぱりネットの繋がりはいい。
知らない人とも、こうやって繋がりあい、支え合うことができる。
このメッセージを千夜に見せれば、感動して元気になるに違いない。
法太郎は確信した。
そして、千夜を元気づけるために一歩踏み出したところで、
ブー、ブー、ブー
とスマホが震えた。
何かと思ってみると警告文だった。
「あなたのアップロードした動画は、非常にセンシティブな内容を含みます。
多数のユーザーが、違反報告を行っています。
なので、一時的に削除を行いました。
多数決制度を利用するか選択してください。
また、多数決制度によって違法とされた場合は、ポイントが減算されます」
法太郎は、頭にカッと血が上るのを感じた。
悲しんでいる人がいて、それを慰めようとしているのに、違反報告をするなんて。
きっと、反響の大きさに嫉妬した人間の仕業に違いない。
法太郎はすぐに多数決制度を申請した。
亡夫を思って泣く女性の盗撮動画が、合法か、違法か。
結果は10分程度で出た。
8:2で、合法。
法太郎は、自分は間違っていなかったと、頷く。
正義は我にありだ。
けれど、多数決の間に千夜は葬儀場の中へと戻っていってしまった。
明日の告別式で動画と暖かなメッセージの数々を見せてあげようと、法太郎は思った。
足取り軽く、法太郎は家路を急ぐ。
夜よりも暗い。
電源の落ちたスマホの画面の裏側で。
善意は拡散していく。
発信者の手を離れ、際限なく。
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