令和20年 回想 須磨法太郎①

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令和20年 回想 須磨法太郎①

法太郎が礼人に出会ったのは、大学4年生の卒業を控えた春のことだった。 当時法太郎は駆け出しのユーチューバーだった。 子供の頃からの憧れの職業。 それこそ、法太郎の子供の頃にはそれこそ小学生でもなれる物だったらしいが、令和10年に、当時の与党の党首である赤田かがわが首相となりネット規制を強化。 現在ではSNSへの書き込みすら免許制となっている。 免許を持たずにできることなんて、電話とメール、あとは通販の注文くらいとなってしまった。 法太郎は映像配信学科で勉強をし、今年卒業しさえすればユーチューバーの資格を取得できることになっていた。 なので、当時は独立した際の配信用の映像の撮りだめと、すでに卒業している先輩のアシスタントのようなことをしていた。 礼人と会ったのは、先輩のアシスタントをしているときのことだった。 その日はよく晴れていた。 「公園の様子を撮影した癒やし動画をとるぞ」 先輩のその一言で、法太郎は公園の人払いをすることとなった。 平日の昼間とはいえ、子供が多くいたため、自然な動きを撮りたいのに撮影をしている法太郎たちを珍しがった子供がカメラに群がってくる。 それらを宥めすかしながら、引きつけておくのが法太郎の仕事だった。 「でも先輩。先輩って元々しゃべりで収益化目指すっていってませんでした?」 「うるせえな。今はこう言うのがはやってんだよ。  食ってくためには流行を取り入れるのがプロってやつなんだよ」 舌打ち混じりの先輩を見て、法太郎は漠然と自分の将来に不安を感じていた。 ユーチューバーなど目指さずに、普通に就職するか、それこそお笑いの養成所に入っていた方が良かったかもしれない。 目の前の先輩だって学校の成績は良かったのに、今はこうして興味のない映像を生活のために撮っている。 いや、そもそもこの映像だってどれだけの再生数があるのか。 そんなことを思っていると、法太郎がせき止めていた子供の一人(小学4年生くらいの男の子だった)が、くるりと公園の外に目を向けた。 「あああっ!先生だ!」 そして、顔をぱっと輝かせて走り出した。 それを見て、周りにいた6人ほどの子供もその子を追うように走り出す。 「ほんとだ」 「先生だ」 「先生これ見て撮影してるんだよ」 「おれちょっと映ったよ」 「先生なにしてんの」 そうして子供に一瞬で囲まれたのが多部礼人だった。 ちょうど礼人は26歳で塾講師として4年目で大分仕事に慣れ始めた頃だった。 子供たちと目線を合わせて、中腰の姿勢で穏やかに微笑む礼人を見ると、ああいう穏やかな人生もいいな。 などと、年寄りじみたことを法太郎は思ってしまう。 ただ、そう思っていたのは、法太郎だけではなかったらしい。 「おお!子供たちに囲まれる教師か。  悪くないな。  美人教師ならもっと言うことないけど、顔の作りは悪くないし。  昔の3年なんとか組みたいな熱血学園ドラマ風の光景は、需要があるかもしれねえ」 いつの間にか隣にいた先輩が、カメラを回していた。 その様子に、法太郎はパズる機会を見逃さないこういう姿勢がプロかと感心した。 しばらくそうしていたが、礼人が立ち上がり子供に手を振って立ち去った。 法太郎と先輩はその様子を見送っていた。 先輩がカメラの画像チェックをしているのを、礼人は横からのぞき込む。なかなか良い感じの動画だ。 なんとなくノスタルジーのようなものを感じさせる。 そこで、はっと先輩が顔を上げた。 「あっ、まずい。撮影許可もらってねえや。  法太郎。お前ちょっと追いかけていって許可もらってこい」 「え?許可って子供の方はどうするんですか」 「ガキの方は適当にぼんやりモザイクかけるから大丈夫だよ。  ほぼほぼ後ろ姿しか映ってねえし。  顔が映んなきゃオッケーなんだから。ほら、さっさと行け」 追い立てられるように、法太郎は礼人を探して走り出した。 礼人はすぐに見つかった。 「あのすいません」 「はい?」 振り返った礼人の身長は法太郎よりも少し高く、近くで対峙すると少し気圧される。 着丈のわりに肩幅が狭いのか、羽織っている紺色のアウトドアパーカーは、少し肩からずっているように見えた。 そのルーズな雰囲気が、逆に法太郎の中でアウトローを連想させ緊張が増す。 そんな法太郎の様子を見て、何を思ったのだろうか。 礼人はスッと法太郎と目線を合わせた。 さっき子供たちにやっていたのと同じように微笑む。 普段ならそんなことをされれば、馬鹿にされているのかと怒るところだが、不思議と法太郎に怒りの感情はなかった。 ただ、安心感がわいてきて、するりと用件を言い出せた。 「あの、あなたの撮影許可がほしいんですけど」 「撮影の許可ですか?」 「ええ、さっきの公園での光景なんかすごい良くて。  動画に撮ったんです。  ぜひアップさせてほしいんです」 礼人は困ったように、頭をかいた。 「すいません。それ、無理なんですよ」 「なんでですか」 食い下がる法太郎に、礼人は気まずそうに自分のスマホを見せた。 それを見て、法太郎は驚くとともに納得するしかなかった。 「黒スマホの黒アカなもんで。  俺の姿をアップロードしちゃうと映像消されちゃうんですよ」
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