2人が本棚に入れています
本棚に追加
令和15年 回想 折田民雄①
民雄は、自身がまだ高校で教師をしていたころ、そして礼人が高校3年生で生徒だったころの頃のことを思い出していた。
礼人の、悲痛な謝罪の声を思い出していた。
「ごめんなさい。ごめんなさい」
その日、民雄の家を訪ねてくるなり、玄関先で頭を地面になすりつけて謝り続ける礼人を見て、民雄はひたすら困惑していた。
太陽が照りつける夏の日。
礼人の下でにじんでいる水は、汗だろうか。それとも涙だろうか。
「どうしたんだ多部。
今日は学校だろ。いくらユーチューバーになるからって授業ぐらいは出ておいた方がいいぞ」
「ごめんなさい。ごめんなさい」
壊れたように繰り返す礼人に民雄は頭をかく。
「とにかく、中入れ」
妻が死んで、すっかり広くなってしまった一軒家に、民雄は礼人を引きいれた。
パタンと扉を閉める。
『暴力教師!ヤメチマエ!』
扉には真っ赤なスプレーでそう書かれていた。
最初のコメントを投稿しよう!