令和30年 葬儀場周辺自動販売機

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令和30年 葬儀場周辺自動販売機

弔問客は皆帰って行った。 葬儀場には、祭壇の線香を途絶えさせないために、礼人の遺族だけが残っている。 法太郎はなんとなく帰る気になれずに、斎場の近くの自販機でぼんやりと時間を潰していた。 日が暮れた後だと、さすがに風が冷たい。 缶コーヒーもずいぶん前に冷めてしまって、今持っているのは3本目だ。 時間を潰すだけならファミレスでもコンビニでも、風をしのげるところはあった。 それでも、斎場から近い、屋外の人通りの少ない自販機で時間を潰しているのは、法太郎自身が礼人との別れを惜しんでいるからかもしれない。 スマホで写真を見ていると、様々な思い出がよみがえる。 動画だって撮っている。 だというのに、それらは礼人が黒アカだという理由でネットに流すことができない。 友人が死んだという報告によって、法太郎のフォロワーからは様々な慰めのメッセージが送られている。 人と人のつながりは、なんて暖かいんだと法太郎は思う。 それだけに、礼人との思い出をネットにアップロードして多くの他人と共有できないのは酷く残酷で理不尽に感じた。 ネットならそれは永遠に礼人の痕跡を残すことができる。 けれど、黒アカの礼人は、ネットという人の絆から弾かれ法太郎のスマホのデータが消えれば写真や動画ごと思い出が消えてしまう。 法太郎は、空になった缶コーヒーを捨てた。 いつまでもここにいても意味はない。 次の日の葬式に備えて、一度帰るべきだろう。 そこで、ふと、斎場の方を見た。 外の空気に触れに来たのだろうか。 礼人の妻である千夜が斎場の表にいた。 法太郎の方には気づいていない。 千夜は喪服のままだった。 通夜の席で挨拶をしていたときと同じように、ピンと背筋を伸ばして前を見ている。 ただ、その瞳はどこか焦点が合っていないように見えた。 無意識のうちに、法太郎は動画の撮影を始めていた。 寒さで手がぶれたが、長年のユーチューバーとしての技術はすぐに千夜の姿にピントをあわせた。 月光の下、シンと張った空気の中、人通りも車の通りもない。 ただ一人、亡夫を思う千夜が立っている。 瞳から一粒、涙がこぼれる。 それで、法太郎は千夜が見ていたものが亡くなってしまった礼人の思い出だと気づいた。 千夜は今まで夫の死に押しつぶされないように気を張っていたのだ。 そして、今一息ついた時にこぼれたのが一粒だけの涙。 法太郎のスマホは、その光景を鮮明に、千夜の表情の一筋ほども逃さず捉えていた。 「俺にできること。  礼人の代わりになんてなれない。  けど、ユーチューバーとして千夜さんを慰めることはできるはずだ」 少しでも支えになってくれれば。 その思いで。 法太郎は、先ほど撮ったばかりの千夜の動画をアップロードした。
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