第1話 幸せの感度

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「じゃーん。これ、一度書いてみたかったの。一緒に書こうよ」  かわいらしい効果音とともに出てきたものは、木製の板のようなものだった。  遠目で見ても、それが何かはすぐにわかった。 「絵馬ですね。懐かしいです」 「あれ、書いたことあるの?」 「大学受験のときに、一度だけ」 「お願い、叶った?」  キラキラとした目でそう聞いてくる千鶴さんは、新しい年を迎えても相変わらずかわいい。  このまま会話を止めてずっと眺めていたいくらいだ。 「なんて書いたのか具体的に覚えてはいないですけど、第一志望には合格できたんで、叶ったんじゃないでしょうか」 「へぇー、すごいね。じゃあこれもご利益を期待しようかな」  そう言いながら、千鶴さんは休憩用のテーブルに移動し、ペンを取った。  それにあわせて僕も移動し、千鶴さんの向かいに座る。 「うーん、いざ書こうとなると、なんて書いたらいいか迷うね」 「それ、わかります。僕もたしか、だいぶ悩んだ気がします」 「なになにしますように、って書けばいいのかな」 「えっと、そうでもないんじゃないですか。第一志望合格とか、商売繁盛とか、そういうのもよく見る気がします」  僕の答えを聞いてまた悩み始めた千鶴さん。  上半身をゆらしながらペンのふたを開けたり閉めたりを繰り返す仕草もかわいい。  いや、もはや何をしていてもしていなくても千鶴さんはかわいい。
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