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「いえ、そんな。僕は全然、待たされたなんて思ってないですよ」
「はぁ、今日のコーヒーもおいしいねぇ。蓮くん、喫茶店でも開いたらいいんじゃない」
「何ですかそれ。褒めたって何も出ませんよ」
なんだ、今日は機嫌がいいみたいだ。今もすごくいい笑顔をしている。
近所のスーパーで買ったインスタントコーヒーでこんなに喜んでくれるんだから、淹れがいがあるってものだ。
っていうか、喫茶店? どういうことだ?
事務所内にカフェスペースを作るんですか。この建物って、飲食業可能なんですか。
もしそれができたら、暇な時間を少しは減らせるだろうか。
探偵事務所と喫茶店の融合だなんて、そんな異色の組み合わせがかつてあっただろうか。おもしろそうだ。
「いや、実際ありなんじゃない? 飲食業が可能なテナントに移って、喫茶スペースの隣に相談受付スペースがあれば、気軽に立ち寄りやすくなりそうだし」
何気に本気だった千鶴さん。
僕も同じようなことを考えていたから、かえってリアクションに困る。
「ま、将来の一つの可能性ってことで。蓮くんも考えといてね」
事務所の利益が上がったら、本当に実現するのだろうか。
検討の余地ありくらいだとしても、それは僕ががんばる理由には十分なりえる。
発想というのはこういうなんでもないときに生まれるものなんだなと、僕は不思議な感覚を持って、コーヒーを口に入れた。
あれ、いつもよりおいしい気がする。
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