第1話 幸せの感度

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「不幸でない状態というのは、今の自分が置かれている状況に対して、特に具体的な不幸の原因を語れないってことだよね」  現状に満足してはいなくても、特に困りごとがない状態ということだろうか。 「私自身の話をすると、今の私は間違いなく不幸じゃないと思うの。毎日何不自由なく生活できているし、不安や不満は特にないよ」  突然なんて嬉しいことを言ってくれるのやら。  僕も同じですよ、と言いたくなったが、ここでこういうことを言ってもスルーされるだけだ。 「というか、今の私はきっと幸せ。毎日楽しいからね」  千鶴さんが幸せなのであれば、それは何にも代えがたい僕の幸せです。ありがとうございます。 「でも、こういうときって、自分が幸せかどうかなんていちいち確認しないよね。早い話が、幸せってなんとなく感じてなんとなく過ぎていくものっていうか」  いつまでも感涙していないで、千鶴さんの話を聞こう。  今のはつまり、いくら幸せであっても毎日のように幸せを噛みしめながら生きているわけではない、ということだろう。  失って初めて気付く幸せってよく言うし。 「要するに、今の自分の状況下で、何かを変えたいって思っていなければ、その時点で幸せって言っていいと思うんだ」
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