第1話 幸せの感度

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第1話 幸せの感度

   1  正月ムードが去り、世間はすっかり日常を取り戻している。  別に正月に限った話ではないが、この社会は切り替えが上手すぎやしないだろうか。  僕は仕事始めの一月四日から数日間は、なかなか通常営業に戻り切れないでいた。  年末年始の休み期間、僕はほとんどの時間を家でだらだらすることに費やした。  こたつに入って眠っているときほど幸せな時間はないんじゃないかと思う。こたつ文化を作った先人たちには感謝しかない。  最近はようやく休み前の調子を取り戻せてきたと思うが、新年早々、探偵事務所に依頼人がたくさん訪れることもなく、僕は今日も事務机で仕事をしているふりをしている。  こんなときに僕はいつも、千鶴(ちづる)さんが声をかけてくれるのを待っている。自分から話しかけるのではなく、千鶴さんに声をかけてもらいたいのだ。  この気持ち、わかってもらえるだろうか。 「ねぇ、(れん)くんはさ、初詣には行った?」  待望の瞬間が訪れた。  僕は千鶴さんの質問に即答はせず、少しだけ考えるふりをして答えた。 「いえ、行ってないです。正月はほとんど家にこもってましたから」 「そうなんだ。じゃあちょうどいいかな」  そう言いながらなにやら紙袋を漁り始めた千鶴さん。  そこから出てくるものに、僕は期待を隠し切れない。  エサを待つ子犬のごとく、しっぽを振って待っている状態だ。
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