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第一章『あのメンバーは今・・・?』
「はぁ~、今日も疲れたなぁ」
ナオはそう言うと、グラウンドに寝転がった。
空にはいくつか雲が浮かんでいる・・・
(マサだったら、あの雲が綿菓子に見えるんだろうなぁ)
そんなことを思いながら静かに目を閉じた。
今は十月。
季節でいえば秋ということもあり過ごしやすい気候だ。
今日も心地好い風が吹いていて、サッカーの練習で汗ばんだ体から徐々に熱を吸い取ってくれている。
気のせいか、少しだけ疲れも取れていく気がする。
ナオがそのように風との戯れを楽しんでいると、
「もぉ~、何やってんのよ。早く帰るわよ」
声と同時にナオの両頬に衝撃が走る。
「冷たっ!」
ナオはあまりの冷たさに飛び起きた。
「あはははははははっ」
ナオが笑い声の主を見る・・・やっぱりトモだ。
「いきなり何すんだよ~」
ナオが頬に触れながら言うと、
「でも気持ちよかったでしょ~?」
トモは笑いながら、両手に持った缶ジュースを振っている。
「気持ちいいわけないだろう。ビックリしたぜ」
「まぁ、いいじゃん。はい、お疲れ様」
トモはそう言うと、ナオに向かってジュースを一本放り投げた。
パシッ
「おっ、サンキュー」
ナオはジュースをキャッチすると、蓋を開けゴクゴク飲み始めた。
「あ~、うめぇ」
一気に半分ぐらい飲むと、さっきまでの汗も引いてしまったようだ。
(トモはこういうとこによく気が利くんだよなぁ)
ナオは同じく美味しそうにジュースを飲んでいるトモを見ながら思った。
すると、ナオの視線に気付いたのか
「ん?何?」
トモが不思議そうに見てくる。
「えっ、な、何でもねぇよ。それより他の奴らは?」
ナオは慌てて話を変えた。
「みんな練習終わったらすぐ帰ったわよ。ナオがのんびりしてるから、学校に残ってるのあたし達だけになっちゃったじゃない」
「そっかぁ、悪ぃ。んじゃ、俺急いで着替えてくっから。もうちょいだけ待っといて」
ナオはそう言うと、部室に向かって走り出した。
その後ろ姿に向かって
「早くしてよ~!レディーを一人で待たせるなんて、非常識にも程があるんだから~」
トモが叫んだ。
するとナオは「わ~ってるって」と言わんばかりに後ろ手を振っている。
さすがに日頃走り込んでいるだけあって、ナオの姿はあっという間に部室の方へと消えて行った。
ナオの姿が消えた方を見ながら
「本当のんびり屋なんだから・・・」
と、トモは一人呟いていた。
しかし、その表情はなぜか笑っている。
何故かというと、トモはナオがのんびりしていたからみんなより帰りが遅くなったのではなく、本当は一人残ってサッカーの練習をしていたからだというのを知っていたからである。
ナオは普段から部活が終わってみんなが帰った後も、一人残ってシュート練習などをしている。
偶然その光景を見たトモは、知らない振りをしてマネージャーの仕事が終わっていないことを理由に、いつもナオが帰るまで待っているのである。
本当はマネージャーの仕事はいつもとっくに終わっているのであるが・・・。
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