薔薇香る憂鬱

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薔薇香る憂鬱

「綺麗な薔薇ね」 彩春(いろは)は見事に咲く薔薇を眺め、優しく言った。 今日は年に一度訪れる祖母の家の近くにある薔薇園に一人で来ていた。 「見てると落ち着くわね」 彩春の気持ちは確かに落ち着いていた。 彩春は薔薇が咲く道を歩き、大きさ、色の違いなど種類の違う薔薇を見て微笑んだ。見てるだけで心が和む。 薔薇園が終わりに差し掛かり、彩春の心に潜む憂鬱が姿を現した。 「……もうすぐ学校か」 彩春は少し暗い声で言った。 連休が始まれば学校も始まる。勉強についていけないとか、友人関係が上手くいってない等のことはない。気持ちの問題である。 薔薇園の薔薇を引き返して見るか。そうすればまだ薔薇を楽しめる…… 彩春は立ち止まってしばらく悩んだ。 そして…… 「来年もまた来るわ」 彩春は出口に進んだ。 薔薇は綺麗だしずっと見ていたいが、来年の同じ時期にまた咲くので、引き返さなくても大丈夫だと思った。 それに学校は憂鬱だが、行かない訳にもいかない。 彩春は薔薇園を出た。 来年訪れると信じて……
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