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 ここは旧稲田村。あたりには鬱蒼と木々が生い茂り、今は使われなくなった古民家やプレハブ小屋が並び立つ。  そこに大学生男女六人のグループが心霊現象の噂を聞きつけ訪れていた。その噂とは、未だに生きていると勘違いして過ごす女の亡霊が愛を感じた時に姿を現すというものだったーー    夕暮れ時、砂利の音を立てて六人は進んでいく。先頭を行くカップルは体格の良いリュウジとグラマーなミイナ。その後ろでじゃれる二人は、茶髪ショートの低身長リリカ、メガネをかけた黒髪セミロング、シホだ。それを優しく見守る爽やかな笑顔の高身長はユウキ。さらに後をトボトボついていく伏し目がちな黒髪ロングはミユだ。 「ミユちゃん大丈夫?」  後ろを振り返るユウキ。 「へ……あ、大丈夫。ありがと、平気だよ」 「そっか無理しないでね」  するとリリカはユウキの背で 「わっ!」  と脅かすが、ユウキは微動だにせず苦笑。 「残念でした。足音で分かってたよ」  隣でシホはクスクス笑い始めた。 「リリカ、頭悪すぎ」 「っさいなぁ、ユウキが驚くレアシーン見れるかと思ったのに!」  ユウキは項垂れるリリカの頭にポンと手を置き 「じゃあ今度びっくりするね」  と微笑みかけるが、リリカはプイと顔を背けた。 「いいもん、この後亡霊見て驚いたユウキ見るから」 「あはは。にしても本当に出るのかな。前のカップルは見る気満々みたいだけど」  イチャつく二人を一瞥。シホはスマホに視線を落とす。 「画像もたくさん上がってるし……確率高いんじゃないかしら」  リリカは後方を見やり 「にしてもミユさ。車酔いしたんでしょ? ずっと車で休んどきゃ良かったのに」  と蔑んだ目つきで失笑。これにシホも同調した。 「ユウキ君が構ってくれるの見越してわざとだったりして」 「それなっ! いつも構ってもらいやすく振る舞って、実はミユまだ本気にしてたりしてね、ドッキリのこと」 ーードッキリとは去年の真冬のこと。シホとリリカがユウキの振りをして偽の告白文を書き、ミユの反応を見るというものだった。  この偽告白を鵜呑みにしたミユは、朝から晩まで寒空のもとキャンパス付近にある神社で、来るはずもないユウキを、一人待ち続けた。  やがて終電が近づきユウキのスマホに連絡を入れてみるも返事は来ず……それもそのはずだった。カラオケでオール中、スマホをリリカに取り上げられていたのだ。その後、ミユは止む無く神社を去った。  翌日、リリカたちはサークル活動の最中、全員の前で全てを暴露するのだが、ミユはそうだったんだと苦笑するのみ。  期待したリアクションが得られなかったことに、不満を覚えた二人は未だに根に持っているのだ。  ちなみにユウキはリリカとシホを叱るとともに、ミユをフォローするために、度々気にかけて話しかけたり、小物をプレゼントしたりしていたーー  ユウキは二人のリュックを押して歩かせる。 「もうやめなよ。せっかくミイナに誘われて小さいサークルのメンバーになってくれたのに。  それにこの心霊情報だって教えてくれたのミユちゃんなんだから、感謝こそしないとダメでしょ?」  二人は渋々といった表情を浮かべて再び前を歩きだした。  そしてユウキは歩みを遅らせミユの側へ。 「ごめんね。俺が皆を説得できずに肩身狭い思いさせちゃって」  ミユは切ない顔で首を横に振る。 「ううん。私大丈夫だよ、いつもありがと」 「嫌なことあったらちゃんと言うんだよ。相談にも乗るしさ。ミユちゃんも大切だからね」  微笑む横でミユは頬を染めた。 「へへ、ありがとうユウキ君。でも……もう我慢しないよ、大丈夫」 「ほんとかなぁ? さっちょっと急ご。あいつら歩くの早いからーー」 ☆  ミユがこのサークルに入ったのは、高校時代からの友人ミイナに強引に誘われたためだった。  ミユは実家がIT実業家で俗にいうリッチな家庭なのだ。そこに目を付けたミイナは度々お金を借りている。さらにはミユの大人しい性格に漬け込み、手駒のように扱使う事が多かったのだ。  そのミユは特に嫌な素振りは見せず、いつも荒波を立てまいと穏便に従っていたーー  周囲は明度下がった夕日が支配する中、しばらく散策した六人は入れそうな古民家に忍び込み軽食を取ることに。  リュウジは菓子袋片手に寛ぐ。 「でもよ、亡霊って本当に出たらどうすんだ?」  ミイナはリュウジに肩を寄せながらニヤリ。 「なにぃビビったのぉ?」 「なわけねぇだろバカか。出てきたら引っ込ませてやるよ」  ミイナはリュウジの手から菓子を食べ始める。 「はむ……んでもさ、美人だったら?」 「亡霊が美人とか、アニメじゃねぇんだから」  ユウキは荷物を整理しながら 「美人だったら、もっと一瞬で話題になるんじゃない?」  思わずリリカは失笑。 「それなっ。ってかさ掲示板で見た骨董品高値で売れたってやつ、あれ集めに行こうよ。売ればワンチャンお金になるっしょ」  シホはふむと頷く。 「そうね。掘り出し物、見つける探検に変更でも良いかもしれないわよ? さっき良さそうなとこあったじゃない」  ミイナはリュウジを膝枕させながら 「それいいじゃん、はは。じゃあさ、亡霊もお宝も見つけてウィンウィンみたいな感じ?」  と指を立てる。これにユウキは苦笑。 「ウィンウィンの意味違うよ」  リリカは腰を上げると 「よっし、んじゃ早速探しますか!」  シホを連れて玄関の方へ。ユウキは目で後を追いながら 「ちょっと勝手に動いたら危ないよ!」  と呼び止めるも、リリカは後ろ手を振り 「だいじょぶ、すぐ戻るって。それにミイナたちのお邪魔になるじゃん」  と行ってしまった。リュウジはユウキの後ろ姿一瞥。 「放っとけよアホどもは。なんかありゃ連絡してくんだろ」 「まぁそれはそうだけどさ……」  するとモジモジしていたミユが、そろりと立ち上がる。 「あの、私ちょっと外行ってくるね」  ユウキは一驚。 「えっ嘘。ミユちゃんもお宝探し派?」  ミユは手をいじいじさせながら俯き加減。 「ううん違くて……えと、飲みすぎたちゃったかなってーー」 「あっ! そっかゴメン。どうぞ行ってきて」  ミイナはけらけら笑い始めた。 「ユウキ付き添わなくて良いの? 処女子、しょんべん漏らしちゃうかもよ」 「やめなさい。リュウジも黙ってないでさ、彼女なんだから言葉遣いを正させた方が良いんじゃない?」  リュウジはミイナの胸を揉みながら 「は? 俺は別に言葉遣い気にしねぇもん。やれるだけでいいわ」  と吐き捨てる。 「あっはは、そんなこと言って実は、誰でもじゃなくって私に惚れてるもんねぇ」 「っせぇな。そだ、ちょっと俺も用足してくるわ」  のそり立ち上がると、部屋を出ていった。 「はぁ、リュウジはほんと懲りないな。昔からだけど」  リュウジとユウキは幼馴染であり大学でたまたま再開を果たし今に至る。  そんなリュウジに一目惚れしたミイナは、リュウジにくっついていく形で、この新規サークルへ加入した。設立定員を満たすためミユを引き連れてーー  リュウジは、ニヤついた顔でスマホを見ながら、ジャリジャリと音を立て、夕日から月明かりに変わった道を歩く。散策時に見つけたひょこりと背の高いプレハブ小屋へと向かうためだ。  小屋の戸をガタリと開けると、両脇に背の高いラック。棚には無数に工具が並んでいる。床にはサビた金物などが散在していた。  十メートル程先の突き当りでは、恥ずかしそうにはにかむミユが、洋服ではなく大きな布一枚を身に纏った姿となっていた。  ミユは頬を赤らめて 「ありがと……来てくれて。ここで良いよね……?」  布をはらりと落とすと、露わになった白い肌と曲線美が差し込む明かりに照らされ艶めいた。 「へぇ……結構良い体してんじゃん。楽しみ甲斐ありそ。ははは」  と歩み寄っていくリュウジ。  彼はここに来る前に、ミユからこっそりメールで情事に誘われていたのだ。好きですと言う告白と共に、誰にも知られないようにこっそり初めてを捧げたいと。  ミユは照れ臭そうに口を手で覆い 「リュウジ君が初めてになるの……」  と目を細める。  リュウジは不敵に笑みを浮かべ、その身体を凝視して歩み寄っていく。すると足元に引っ掛かる感触の後にプツンと軽い音が響き ーーグチャッ!!  リュウジの喉に強い衝撃が走りよろめく。そして床にはボタボタという鈍い音。笑みの消えた顔で、自らの首元を貫通した固いものを手で触れながら 「っ……なん、なんだっごほ……」  生ぬるい感触がサーっと全身を伝う中、ドサッと倒れ込んだ。ミユは布で、体についた色を拭ってリュウジのもとにしゃがむと 「ふふ、初めてはリュウジ君だよ……痛い?  覚えてるかな、呑み会の後で酔っぱらって私の顔を殴った時の事。これその時に出来た傷なんだよ?」  とおでこにかかる前髪を分け、ボコりとした傷を見せる。  リュウジは意識が朦朧となる中、ミユを睨み上げ 「っごほ……おまえっ……ぐ」  ミユは布をひらりと羽織り、閉じかけの瞳でニヤリと笑い 「それだけじゃないよ。私が貸してあげられるお金無かった時、私のバッグ勝手に盗んでネットで売ったよね? 置き引きされたって嘘ついて。  バッグなんてどうでもいいの。でもね……あのバッグにはね、ユウキ君にもらった大切なストラップも付いてたんだよ? 悲しかったな……」  リュウジは虚ろ気な目になりながら、床を這わせた手をミユに伸ばし 「……っぐ、おま……ころっしてや……」  ミユはクスッと笑い、リュウジの手を取り自分の首や胸に爪を立てさせる。 「私は襲われちゃったの。でもリュウジ君はたまたま落ちてきた工具に刺さっちゃった。  大丈夫、寂しくないよ。後で皆も同じとこに行かせてあげるからね、ふふ」  放り投げた腕はどさりと音を立てたーー  その後、服を着替えたミユはある場所へと向かった。それは骨董品の棚が散見されたボロボロの民家だ。  風が吹き抜ける廃れたベランダから忍び込むと中からは微かに呻き声。  ミシリ……ミシリ……と音を立てながら、ぼんやりと外の明かりを取り込む居間を抜け、汚い襖を開ける。  すると二十畳ほどの和室。そこでは不自然に一部の畳が抜け落ちていた。四畳程のぽっかりとした穴だ。  穴からは誰かいるの……!? と絞り出す様な声。  ミユは部屋の隅にある土嚢を数個、穴の近くまで運び終えると膝をつき、スマホのライトを当てて穴を見下ろす。  数メートル下には、背中から金属状の角を生やし、宙に浮いたままぐったりとするシホ。その隣では、地面から顔を出した大きなフォーク状の農具に足腰を貫かれたリリカ。まるで二人とも操り人形のような形だった。  リリカはミユの姿に目を見開き 「ミユっ! おねがい助け……っく、足が……背中も何か……動けっ……ないの。助けてっ!」  と悶える顔で訴える。ライトにあたるリリカの唇から首にかけては赤一色が覆い、鈍い光を反射していた。  ミユは含み笑いをしてから 「リリカにプレゼントだよ。言ってたよね? 口紅欲しいって。良かったね、綺麗だよ」 「っなに、言って……げほ、げほ。はやくぅ……助けてよっ……!」 「私ね、知ってるんだよ。ユウキ君のスマホに私のフェイクポルノ送ろうとしたよね?」 「……っなに。なんで……ねぇお願い、謝るから……たすけて」 「ネット関係は詳しいから全部分かってたよ、ふふ。ユウキ君のスマホ遠隔操作して消しちゃったから届いてないんだけどね、びっくりした?  それにね、亡霊の噂作ったのも私なの。画像なんて簡単に加工できるし、掲示板でっちあげちゃった」 「……助けてっ……っうぁ痛い、痛いの……っうぅ」  穴の中で響く悲痛な声と共に、微かにぐちゃりという音。徐に立ち上がったミユは土嚢の口を開き 「今まで私の服、どれだけダメにされたか分からないや。リリカもシホも酷いよ。ユウキ君に見てもらうために一所懸命選んだ服だったのにさ……切られたり色付けられたり。悲しかったなぁ」  リリカは虚ろな目の下に絶え間なく涙を流し 「ごめん……やだ、ねぇなにしてーー」  ミユは土嚢をズズと引っ張り寄せ 「あ、そうだ。リュウジ君には私の初めてあげたの。  リリカには口紅をプレゼントできたね。シホは刺激的なホラー映画見たいって言ってたから、隣で親友が息絶えるってやつ見せようかなって思ってたんだけど……ふふ、死んじゃってたね。  じゃあリリカ。ばいばい」  と目を細めて微笑んだ。  リリカは逃げ出そうと足を動かそうとするも激痛に身動き取れず 「痛っ……いたぃ……やめっげほ……ちょっと、やめてよ! お願い……っ何でもするからお願いっ!」  口に入り込む土に咽ながら 「げほ……やだっ! やだぁ……げほ……ったすーー」  直後泣き喚く声は聞こえなくなった。その後、ミユは無言のまま土嚢を数袋空っぽにさせ、穴の上に畳を被せるとその場を去った。 ☆  部屋に戻ってきたミユを見たユウキは不安げな顔で 「あっ! ミユちゃん、大丈夫? 遅かったね……え、どうしたのその傷」  ミユは俯きながら、はだけた服を整え 「ちょっと……そのーー」  とすすり泣く。ユウキは肩を支えながら 「どうしたのっ、何があったの?」  ミユは肩を震わせ 「……っかった」 「え……何?」 「怖かっーー」  とその場に座り込む。ユウキは背中を摩りながら服を整えさせ 「何があったの……こんな震えて。あれ、どうしたの首に血が付いてる」  するとスマホをいじっていたミイナが顔を上げ 「ほんとに出たんじゃないのぉ? 何か連絡取れないんだけどリュウジも皆も」 「まさかそんな……でも確かに皆遅すぎる。何が起こってるんだよ」  そこでミユは何かをぼそりと呟く。聞き取れなかったユウキは顔を近づけ 「えなに……ミユちゃんどうしたの?」 「襲われたの……リュウジ君に」 「っえ……そんな……いや、あいつーー」  ユウキは動揺するも、あり得ない話ではないと考えた。リュウジの性格、二人の出ていったタイミング、ミユの傷などを考慮した結果だ。  それに黙っていないのはミイナだった。 「は……? 何言ってのこいつ。リュウジが?」  ミユはユウキの腕を掴み、悲哀に満ち溢れた目で 「そしたら、棚の工具が降ってきてリュウジ君が……死んじゃっーー」  と震える声を途切れさせ顔を伏せた。ミイナは慌てて立ち上がり 「は? 何言ってんの、意味わかんないんだけど、ってかどこだよっ!? どこにいんのリュウジは!」  ミユに駆け寄ると、肩を揺さぶり始める。ユウキは腕を掴んで 「っちょ、待ってよ! やめて落ち着こって。  確かめに行こうよ。ミユちゃん気が動転してるだけかもしれないでしょ?」  ミイナはユウキに抑えられた腕をバタバタさせながら 「どこだよっ! 早く行かないとヤバいじゃん! ミユ言えよお前知ってんだろ!」  ミユは俯いたまま、震える声で 「出て三軒先……背が高いプレハブ……だよ」  ミイナは一目散に部屋を出ていった。ユウキはスッと立ち上がり 「ちょ、ミイナ……くそ。ミユちゃん、少しここで待っててくれる?」  ミユは俯いたまま、床に涙を落としながら数回頷いた。ユウキは屈んで肩を撫でながら 「可哀想に……確認したら戻るから待ってて。何かあったらすぐ電話してね」  と言い残し出ていく。  その後ミユは徐に立ち上がり薄ら笑みを浮かべ、その後を歩いてついて行ったーー  プレハブに着いたユウキは言葉を失った。部屋の中には鉄臭さと異様な臭気が充満し、リュウジは滑りとした赤色の水たまりの上で横たわっている。その傍では、泣き崩れるミイナがいた。 (ほんとに……死んでーー)  ユウキは吐き気を催し顔を歪ませた。顔を背けてグッと堪えた時、目に飛び込むのは背丈と奥行のあるラック。 「……これボロボロだ。きっとあそこの棚が……あの高さから滑り落ちれてくればただじゃ済まないか。でも何で、こんなに鋭利な刃物ばかり」  するとミイナは泣きじゃくりながら 「っ……ミユのせいだぁ。あいつ、あいつのせいで、くっ……」  唇にギュッと歯を食い込ませた顔を上げる。ユウキはミイナの肩に手を置き 「落ち着いてミイナ、警察に電話しようよ。あと皆にも知らせて、ミユちゃんから話を聞くのはその後。きっとミユちゃーー」  ミイナは言葉を耳に入れず、パンっとユウキの手を弾き 「どいて……あいつ許さないっ!」  と入口に向かおうとすると……そこにはミユが佇んでいた。ミイナは鬼の形相で 「くそ……お前ぇっ! お前のせいだぁっ!!」  ユウキの目の前をサッと横切りミユに駆け寄るが、外へ逃げ出してしまう。 「おい待てこらっ! 絶対許さねぇっ……!」  と憎悪を纏った顔で後を追う。  やがてすぐそばの工具置き場の前で、ミユは立ち止まり振り返る。ミイナは突っ込むようにミユの顔を思いきり殴りつけ 「っお前のせいだ……お前が死ねばよかったのに!!」  と、数歩下がったミユを再び殴りつけようとするが……いきなりニヤリと笑みを浮かべたミユは、ミイナに抱き着き 「もうすぐプレゼントあげるね。死ぬまでリュウジ君と一緒が良いって言ってたもんね。ふふ」  と耳元で囁き、サッと離れるとリュウジから拝借した多機能ナイフを見せつける。 「……は。何でそれーー」  ミイナは瞳を震わせナイフに手を伸ばす……ミユはその手にギュッとナイフを握らせ両手でガシリと掴むと、その刃先を肩へグイと引きよせ 「っきゃあぁっ!!」  とつんざく悲鳴を上げた。  理解追い付かぬミイナは握らされた手の指に生暖かい感触を感じながら 「おま……何やっーー」  視線をやるとナイフは薄ら微笑むミユの肩に、グサリと突き立っている。  ミイナは慌てて離れようとするものの、ガッシリ全身で抱え込むようにして掴まれた手はミユの体を揺さぶるだけ。 「っお前離れ……!」 「やだぁっ痛いよ! 助けてぇっ……!!」  そこに駆け寄ってきたユウキは、その光景を目の当たりにすると青ざめた顔で 「おいミイナ? 何やってんだよ……!」 「ちがっ……こいつがーー」 「ーー助けて! ユウキ君殺されちゃうっ……やだぁっ痛いっ!!」  ユウキは慌ててミイナの腕を掴むと 「っおいミイナ! やめろよ何てことしてんだよ!」 「違う、離せよ違うんだよ、くそっ……!」 「ダメだってこんなこと……っミイナ!!」  と、揺さぶり引き離そうとした瞬間。  ミユは身体を捻りミイナのバランスを崩させ……よろけたミイナは壁にかけてあった大きな三日月鎌を背にバタンッと音を立てる。 「っんぐ……なっなんで……うそーー」  腹部からは鎌の先端が突き出て赤み帯びていた。ユウキはすぐに腕を離し 「え……嘘でしょ。み、いな」  ミイナは、みるみるうちに目の光を無くし、赤い湧き水を吐き落しながら……ぐたりともたれてしまう。 「……ど、しよ。そんな」  恐恐と顔を強張らせるユウキ。ミユはそっと近寄り 「……ユウキ君のせいじゃないよ」  と震える手を優しく握る。ユウキはミイナを凝視したまま 「……でもこれ。どうしようっ!」 「ユウキ君と争った跡あるし。警察の人来たら……たぶんユウキ君大変なことになっちゃう。正当防衛で済まないかも……殺人で捕まっちゃうかも、しれないよーー」 「へ、嘘だそんな……犯罪者? いやだ、そんなのやだ!」  ミユはユウキの頬に手を添えて 「大丈夫だよ。襲われた私を庇ってくれたんだもん。もし捕まっちゃっても、私ずっとついてるよ。でも……」 「なに、でもなに……?」 「隠しちゃえば、何とかなるかもしれないね」  縋る目でミユを見つめながら 「ミユ……ちゃん。そっか、そうすれば……でもそんなことーー」  ミユはそっと数秒唇を重ねてから 「守ってくれて嬉しかったよ……だから、今度は私が守ってあげるね……。  電子記録残らないようにできるし、無かったことに出来る。私そういうの得意なの知ってるよね。大丈夫、全部私に任せちゃって良いんだよ」 「あ、あぁ……わ、分かった。でもミユちゃん怪我は……?」  ミユはユウキの胸元に抱きつき 「救急車呼んだら、バレちゃうでしょ。だから私ユウキ君守るためなら我慢する。  だから心配しないでね……私の全てを上げる。だからその代わり、ずっと……そばにいてねユウキ君」 「わ、わかった……よ」  ミユはその口元に笑みを浮かべ、目を閉じたーー
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