荒川くんの方程式

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「あら、どうしたの? というか、 他高の子がなんでここに いるのかしら?」 俺と女の子が完全に 意思疏通不能になって いると、おばさん先生が 声をかけてきた。 女の子はホッとしたような 顔で先生を見上げる。 「なんかうちにいる 先生に用があるみたい なんですけど、 でもうちの高校に日渡なんて 先生いないですよね?」 女の子がこう言うと、 おばさん先生はちょっと 考えて、それから 「ああ!」と声をあげた。 なんだ、やっぱ いるんじゃん。 そう思った俺に、 おばさん先生は思いも よらないことを言った。 「あなた1年生だから 知らないだろうけど、 早川先生の旧姓は 日渡っていうのよ。 さっき早川先生が職員室に 戻ってきてたから、 呼んでくるわね。」 旧姓・・・・・・・? なんか、 全く想定してなかった 単語が出てきて、 いまいちどうなってんのか 掴めなくて。 女の子が俺に頭を下げて 立ち去ってから程無くして、 日渡先生やってきた。 そのお腹は、 少し膨らんでいた。 ああ、なるほど。 日渡先生、 結婚したんだ。 日渡先生は俺を見ると 目を丸くして、 それからすぐに嬉しそうに ふわりと笑った。 「荒川くん! 会いにいてくれたのっ??」 以前と変わらない ほわっとした笑みに、 懐かしさを感じる反面、 ちょっと照れ臭くさい。 俺はあえて視線を落として、 「すぐ俺って 分かったんだ?」 なんて言ってみる。 すると、日渡先生は コロコロと笑った。 「分かるよ、 荒川くんのこと 分かんなくなるわけ ないよ。」 あー、もう。 こういうの言われると 嬉しいじゃねえか。 俺が恥ずかしくて ポケットに手を 突っ込んだまま 黙ってると、 日渡先生は俺のそばまで 来てくれた。 「教育実習のときの 生徒さんがこうして 会いに来てくれるのって 今まで無かったから、  すっごく嬉しい! もう高校生なんだね、 荒川くん。」 「・・・・まあな。」 日渡先生のおかげで、 ちゃんと高校に いけた、って言ったら、 もっと喜んでくれるかな。
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