荒川くんの方程式

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そっと、 日渡先生の方を見ると、 日渡先生は膨らんだお腹に 大事そうに手を当ててて、 雰囲気も教育実習の時に 比べて落ち着いていた。 「ここで立ち話もあれだし、 ちょっと場所変えよっか!」 日渡先生はこう言って 元気よく歩き出そうと するけど、 え、大丈夫? 「や、 そんな動いて平気なわけ?」 俺が思わず訊ねると、 日渡先生はクスッと笑った。   「これくらいなら大丈夫。 心配してくれて ありがとう。」 「・・・別に乳牛の 心配とかしてねーし。」  昔の俺は、 日渡先生に好き放題 言ってたから、 なんか、 今さらイイコな自分を 見せるのも、 照れ臭さがヤバくて。 だから、中学の時 みたいに変に反抗的な こと言ったわけだけど、 今の日渡先生は、 「乳牛って懐かしいね(笑) そんな呼び方するの 荒川くんだけだったよ?」 って、落ち着いた 反応だった。 俺が中学の時は、 「日渡先生って 呼びなさいっ!!!」 ってプリプリして 言い返してきてた くせにな。 その反応が面白くて、 日渡先生って全然 呼んでやらなかったけど。 俺たちはゆっくりと、 裏庭を歩くことにした。 「荒川くん、見た目が 落ち着いたからわたし ちょっとビックリしたよ。 制服よく似合うね。」 日渡先生は柔らかくて ふわふわとした雰囲気で 俺に話しかけてくる。  俺はフンと笑った。 「制服似合うねって、 中学の時も学ラン だったじゃん。」 「うん、確かに(笑) でも大人っぽくなったし、 それも含めて。」 「へー・・・・。 じゃあさ、 良い男になった? 俺。」 悪戯っぽく訊ねれば、 日渡先生は目をクリッと させて、 そしてニッコリ笑った。 「うん、中学の時より 良い男だよ。」 「日渡先生の 旦那よりも?」 『日渡先生の彼氏なんか より良い男になってやるし。』 中学生の時に言った、 精一杯の言葉。 もう、彼氏じゃ ないんでしょ? 日渡先生は、 今の俺の発言には 何も言い返さなくて、 ただ、 ふんわりと笑っていた。 お世辞ぐらい言って くれてもいいじゃんね。 こういう素直なところは 昔と変わんないのかもな。
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