荒川くんの方程式

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その、薬指に輝く指輪。 結婚、 してるよなー、 どう見ても。 俺は小さく笑った。 「早川ってなんか 聞いたことあるなって 思ったけど、 あれか。 乳牛と一緒に教育実習に きてた先生。」 隣のクラスを担当してた 眼鏡の男の先生。 彼女いるって教育実習中に 暴露して、 それで女子が大ダメージ 喰らってた気がする。 まさか相手が日渡先生 だなんて誰も思わねーよ、 近すぎだろ、 灯台もと暗しってやつか? そのことに気付かずに、 早川先生の前で日渡先生を 「ちょっと来てくれる?」 って呼び出した俺な。 残念すぎる。 日渡先生は俺の質問に 恥ずかしそうに、 「うんっ・・・・」 と頷いた。 やっぱあいつか。 「結婚したんだ?」 「そうだね。」 照れたのか少し 頬を赤らめた日渡先生。 で、 おめでた、ですか。 俺はピタリと立ち止まった。 「荒川くん?」 「乳牛、 今幸せ?」 答えなんか、 分かってるけど。 乳牛は目をパチクリ させると、 くしゃっと、幼い 笑い方をした。 「そうだね、 すごく幸せ。」 もうそれが癖に なっているのか、 お腹を優しく撫でた 日渡先生。 ・・・・・・そっか。 『もし彼氏に泣かされたり、 捨てられたりしたら、 俺のとこに来い。 しょーがねぇから俺が 乳牛を拾ってやるよ。』 なーんて中学生のときに 言ったけど、 そんな心配、いらねぇよな。 俺は背筋を伸ばして、 ゆっくりと頭を下げた。 「結婚、 おめでとうございます、 早川先生。 ・・・・・幸せなら、 良かった。」 きっと、日渡先生の 旦那に比べたら、 俺なんて糞ガキだろうけど、 でも今は、 カッコつけさせて。 精一杯、背伸びさせて。 良い男ぶらせて。
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