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俺の恋心は、中途半端にぶら下がり、俺自身も上手く処理出来ず、そのまま月日が流れた。
結局、ハルとは、仲の良い友達関係を築いたが、当時の俺は、まさか違う方の゛ハル゛と付き合う事になるとは思ってもみなかったのだーー。
「ーー瑠依、瑠依っ! ちょっと、聞いてるの?」
放課後、同じクラスの石垣つばさが話があると言われ、非常口階段の所で二人で話をしている最中、つばさが俺の肩を小さく揺さぶり、不機嫌顔を露にして、俺が彼女の話を聞いていなかったのを咎めてきた。
「ごめん、何?」
「だから、瑠依って柳と幼馴染なんでしょ? だから、さっきもアイツを庇ったの?」
「さっき?……ああ、さっきね」
つばさの言うさっきというのは、昼休みの事だ。彼女が自分が買い忘れた物を、柳に押し付けようとしていたのを俺が止めたのが、何やら気に入らないらしい。
何か変だと思ったが、どうやら俺は彼女に試されたようだ。
「まあ、つばさの言う通り、そんな感じ」
「そんな感じって。……でも、幼馴染のくせに、一緒に行動してないよね? クラスでも殆ど無視してるじゃん。柳のこと嫌いなの?」
「嫌いとかじゃないけど。まあ、色々とあるんだよ」
誰にだって触れられたくない事の一つか二つあるだろう。俺は適当にはぐらかす。
「そんな説明じゃ、全然納得いかないんですけどっ」
「だからって、もう柳のことは構うなよ」
「ほら! それだよそれ! それがおかしいって言ってるの! やっぱり瑠依は、あいつのこと特別扱いしてるように見える」
「それだったらそれで別に良いだろ? つばさには関係ないことじゃん」
「関係あるよ! 私だって瑠依に興味持って欲しいもんっ! 人に関心を持たない瑠依が、柳の時だけ王子様みたいに助けたりするるのを見ると、誰だって嫉妬するしっ」
「別にあいつだけが特別ってわけじゃないから。もうこの話終わりで良い?」
どうしてこういう勘は、女子は鋭いのだろうと、若干面倒になりながら、話を終わらせようとした。それでも納得いかない彼女は、まだ何かわーわーと喚いている。
昼休みの件だって、何が特別だと言うのだろう。つばさの理不尽な頼み事にクラスメートが困ったから助けただけだ。それがたまたま柳だっただけ。そう、たまたまだ。
ーーと、自分に言い聞かせているが、本当は違う。
昔みたいに困った顔で、すがるような目を、一瞬でも見てしまったら、助けてあげなきゃと思ってしまったのだ。
「それにしても、本当に不思議。瑠依みたいなハイスペック男子が、どうして柳みたいな地味ないまいち君と幼馴染だったんだろ」
「地味ないまいち君……か」
つばさの言葉に、俺は、心の中で小さく溜め息を吐いた。
彼女には、柳がそう見えているのか。だとしたら、きっと周りもそうなのだろう。
でも、俺には、柳がどんな格好をしたって、どう成長したって昔のまま変わらずに見えてしまう。
愛らしいあの頃のままーー。
俺の初恋は、俺自身も気付かないうちに、どんどん拗れていってしまっいるのだろう。
「ーーじゃあ、俺はこの後用事があるから、行くね」
「ちょっ、瑠依っ!」
彼女の制止の声を無視し、幼馴染がいる保健室へと向かったーー。
end
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