白衣の天使とおじさん

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白衣の天使とおじさん

私は看護師さんが好きだ。 こう書くとマニアックな嗜好か何かだと思われそうだけれど、そうではなくて(白衣などは大好きだけれども)、尊敬しているという意味だ。 数年前に息子が交通事故で入院した際、約2ヶ月の入院期間の間、大勢の看護師さんたちにとてもお世話になった。 怪我の治療に関する悩みを親身になって聴いて下さったり、まだまだやんちゃ盛りの息子に、嫌な顔一つせず「怪我の痛みはどう?」と声をかけて下さったり、時には私の息抜きを促すように、世間話をして下さったり。 このコロナ禍でも、様々な理由であちこちの病院を受診しているのだけれど、「こんにちは」と元気に挨拶して下さる看護師さんの笑顔を見ると、何だかこちらもホッとする。 今日、突発性難聴の治療のステロイド点滴を受ける為に耳鼻科へ行った。 もう3回目なので、私も慣れたものである。 ベッドに横になって待っていると、すぐに看護師さんが点滴を持ってきてくれた。 「今日で3回目やねー」と言いながら、名前の確認。 「消毒しますねー。あら、このトレーナー可愛い。袖にフリル付くだけで印象変わるねぇ。ハイ、ちょっとチクッとしますよー。私、体が大きいから、服買うといっつも袖が短いねん。今度から私も袖にフリル足してみよかな。……ところで、今日の点滴何回目って言ったっけ?」 あんまり気さくに話して下さるので、私もすっかりリラックスして「3回目です(笑)」と笑ってしまった。 そして私の点滴が始まって5分ほどしてから、隣のベッドに患者さんがやって来た。 点滴用のベッドスペースがあまり広くないので、カーテンを閉めていても隣のベッドが見える。 横になっているのは、白髪混じりのおじさんだった。 少しして、おじさんの元へ看護師さんが来た。さっきの、気さくな看護師さんの声だ。 会話を聞く限り、原因はわからないけれど、そのおじさんも私と同様、毎日点滴に訪れているらしい。 しかも、どうやら私よりかなり回数が多そうだ。 「毎日してるから、腕固くなってきちゃってるねぇ」と、看護師さんが言った。 何度も同じ箇所に点滴していると、私も固くなるのかなあ…とぼんやり思いながら、何となく二人の会話に耳を傾ける。 おじさん「今日寒いから固いんちゃう?」 看護師さん「でも、反対の腕はそんなことないよ。…あー、アカン。これは刺したら痛いわ。痛い痛い」 おじさん「痛い痛いって、痛いのは俺やんか」 看護師さん「確かに私は痛くないねんけどな(笑) 気持ちやん、気持ち!」 そんなやり取りに、思わずフフッと微笑ましくなった。 何というか、大阪人やなあ…としみじみ感じてほっこりする。 結局おじさんは、逆の腕に点滴することになったらしい。 約20分の点滴が、今日は何だかあっという間に感じた。 耳の具合も日に日に良くなっているし、薬と一緒に元気も投入してもらった気がしたので、帰り際、私もいつもよりちょっと大きい声で「ありがとうございました」と言った。 一斉に「お大事にー」と返してくれる看護師さんたちの声が、心地良かった。
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