生まれたばかりの赤ちゃんが世界を滅ぼそうとしてるんだが?

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 さあ、いよいよ本番の日がやって来ました。誰よりも早く登校して、最終チェックです。舞台よし、台本よし。すべてよし。  ……ふと、僕は思いだしました。  前世での誕生日と今世での誕生日。  父様はその日、「ふはははは」と笑いながら、さらってきた人間を僕の前に引きずってきて、僕に殺させました。そして、これでお前も立派な一人前の悪魔として認められたな、と僕を偉そうに褒めてくれました。悪魔はそういう記念日を、試練の日として扱って己の価値を周りに知らしめるのに使います。  けれど父さんは、「ハッピーバースデー、有栖!」といいながら僕にビーズのついた髪留めのゴムを買って贈ってくれました。僕は男の子なのに。と言ったら「ええ、有栖は男の娘だからね」と母さんにも納得して押し付けられました。両親が意味不明。この世界の人間達は、この記念日を祝福の日として扱っています。僕はずっとそれが不思議でした。立派な大人ならまだしも、何の力もないただの子供までどうして祝うのかさっぱりです。二人に聞いたら、ただ「愛してるからだ」とはぐらかされるばかりで、答えがまったく分かりません。  式は滞りなく進んで、僕の出番がやってきました。出来るだけ堂々と見えるように移動、壇上に立って、集まった人間立を悪魔の魔王らしく睥睨します。  形式的な挨拶を述べて、初めの内は普通の子供がするように、親、教師への日ごろの感謝や、今までの友人たちと培った思い出話を語ったりします……、僕は父様と違っていきなり頭ごなしに「ふはははは、人間どもよ。我に服従せよ」とは言わないんです。より高い所へ上げて落とす。こういうのは演出が大事。  いよいよスピーチは佳境に入り、残すところは僕の世界滅亡宣言だけとなりました。 「今まで秘密にしていてごめんなさい。僕には一つ、他の人達とは違う所があります」  打ち合わせには無い事を言いだしたので、教師達……とくに担任の先生なんかは、おや? という顔になります。けど、構わずに続けます。スルー。 「僕はこの世界の人間ではありません。特別な力をもってここへ転生しました」  教師達だけではなく生徒たち、保護者達もざわめきだしました。狙い通り。ここで混乱している所に、一気に畳みかけて、叩き落とすのみ。自分の有利に事を運ぶ為には敵に思考する時間を与えてはいけない。先生、ありがとうございました。友達とやった放課後のドッヂボールで獲得した技術です。生涯勉強。勉強は役に立つ。 「それを今、証明します」  僕は放つ。この世界に転生して数年間、瞑想によってため込んできた魔力を。  この世界を汚染して、と。  子供とはいえ、魔王の子供、そして悪魔なのだ。  魔力は存分に膨れ上がって。今までひたすら抑え込まれていたフラストレーションを発散、爆発した。  世界が闇に包まれる。  世界が闇に満たされる。  さあ、息が出来なくて苦しみもだえるがいい。  さあ、飲み水がなくなって渇いて枯れ果てるがいい。  さあ、作物が育たなくなって、飢えて骨になるといい。  この世界に生きるすべての命達よ。絶望せよ!  僕はできるだけ酷薄に見える笑みを浮かべて、保護者席で立ちあがっている父さんと母さんに笑いかけた。 「ね、だから言った通りになったでしょ? 世界は滅びるって」  その日、一つの世界が滅亡した。
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