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少し硬い声に、私はそっと身体を離す。
ぬちゃっ、と密着していた濡れた皮膚が離れる音が小さく聞こえた。
「ゆぅきさん……怒った?」
照谷さんは無言で後ろを振り向きもしない。
「ごめんなさい……」
謝り、後ろから腕にそっと触れる。
どうしよう。
怒らせてしまった…。
しゅんとして床にペタリと座り込む。
「彩」
名前を呼ばわれ、そっと顔を上げると照谷さんはいつもと変わらない優しい顏でこちらを見ていた。
「床座ると寒いよ」
コクリと頷き、また膝立ちになると、身体を引き寄せられ、その体勢のまま抱きしめられる。
「怒ってないの?」
「怒ってないよ。ごめんね。いろいろ耐えてたんだ」
「素数?」
「ふふ、そう。素数。よく覚えてたね」
身体を離し、髪をよしよし、と撫でられる。
「彩、交代して、髪洗おう。洗わせて?」
椅子に座るよう促され、背中側に照谷さんの気配を感じながらシャワーで髪を濡らす。
シャンプーは照谷さんが持っており、もう洗う気満々だ。
優しく指を髪の間に入れ込まれ、泡だてていく。
小さく指を動かし、泡がしゅわしゅわする音が頭から直接耳に響く。
「彩、気持ちいい?」
「……、うん。きもちいい…」
うっとりと目を閉じて言う。
シャワーでシャンプーを洗い流し、トリートメントをつけ、髪を梳き洗い流す。
「出来た」
「ありがとうございます」
パッと振り返ると近距離でまた目が合う。
「また浸かろうか」
コクリと頷き、2人で浴槽に浸かる。
私はまた髪を高めの位置にまとめた。
その姿を照谷さんがジッと見つめている。
「彩はここね」
今度は照谷さんの脚の間に、私が背中を向けて座る格好だ。
顔が見えないなぁ、と残念でチラチラと後ろを振り返り顔を見る。
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