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もう終わる。
この関係が永遠に続くわけがないと分かっていたのに、私はいつの間にか期待していた。
溢れ出る涙は止める事ができず、先を歩く八重樫君とは違う方向に曲がった。
落ち着くまで、気持ちの整理がつくまで、近くの公園で時間を過ごそう。
春が近いとはいえ、夜の公園は肌寒く、暗くて怖かったがそれ以上にこれから訪れる現実の方が怖くて仕方がなかった。
本当に人を好きになるのはこれで最後にしよう。
こんなにも辛くこんなにも愛おしい気持ちの最後は八重樫君がいい。
毎日が楽しかった。彼がくれた日々は一つ一つが宝物だった。
優しい八重樫君
悪戯好きの八重樫君
甘えん坊な八重樫君
ヤキモチ焼きな八重樫君
どれも私が大好きな八重樫君。最後は笑顔でありがとうと言おう。
「何でこんな所にいるの? ハァハァ……」
「蓮」
走ってきたようで八重樫君は息を切らしながら中腰になっている。
「振り返ったらいなくなってて焦った。俺、考え事してて。無事でよかった……」
「心配かけてごめん」
「泣いてるの?」
涙は収まっていなかった。
震える声に八重樫君は気が付いたのだろう。
「今までずっと傍にいてくれてありがとう」
必死に言葉を紡ぎ出す。
「私、蓮が今でも大好きだよ。蓮に好きになってもらえて本当に嬉しかった。こんなに幸せな日々を過ごせたのも蓮のお陰。最後に恋させてくれてありがとう」
「双葉……」
「いつでも蓮は私にお仕置きをして許してくれると思い込んでた。でもさ、そんな訳ないんだよね。私、いつも自分のことばっかりで蓮の愛情表現に甘えてた。部長とは何も無いけど、私が逆の立場だったらいい気がしない。ごめんね」
こんなこと話していたら暗くなる。
笑顔で話さなきゃ。
「おじさまの漫画ばっかり読んでたのは、年下男子の漫画を読むと期待しちゃうから。漫画って絶対ハッピーエンドなんだよね。
蓮と自分を重ね合わせて幸せ妄想してしまう自分と冷静になっちゃう自分の間で葛藤が始まって漫画どころじゃなくってさ。って私ばっかり話してるね」
「いいよ。続けて」
「ありがとう。蓮は優しいね……。それでね、思ったんだ。年下男子は現実だけで楽しもうって。蓮との日々は漫画のように楽しくて、幸せだった。でも、漫画のように蓮の心を読む事は出来なかった。もっと早く素直になって蓮に甘えて、心から楽しめば良かったなぁってちょっと後悔してる。
蓮、蓮は大好きな人と恋をした時、心から楽しんで。蓮はここぞって時に我慢しちゃうタイプな気がする。我慢は程々にして、言いたいこと言って、蓮らしく恋に自由に目一杯楽しんで。私への情も、私との日々も忘れていいから」
これまでの日々は、私だけの大切な思い出でいい。
八重樫君に覚えていてもらおうなんておこがましい。
「忘れないよ」
八重樫君は最後まで優しい。
「ありがとう。蓮の幸せをずっと祈ってるね」
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