2人の秘密

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その日は私の苦手なパニック映画を観させられた。 だが、そのお陰で私は思う存分、八重樫君に甘えられた。 繋いだ手を離さず、驚いた時は彼の腕にしがみつき、見たいけど見たくない時は彼の腕を使って隠れるように隙間からスクリーンを見ていた。 「めっちゃ腕痛い」 映画が終わると八重樫君は私に向かってそう呟いた。 「ごめん。ちょうど良い所に腕があったから」 申し訳なく言う私に八重樫君は笑顔を見せながら私の頭をくしゃくしゃにした。 私は嬉しくなってまた腕にしがみついた。 いつものようにカフェに行き、映画の話をしていた。 その間も私は八重樫君の手を離さなかった。 「ねぇ、何で今日はずっと手繋いでんの?」 「なんとなく。繋いでいたいから」 「双葉がそんなこと言うの珍しいな」 「キモい?」 「いや。帰ろっか。話しは家でもできるし」 私達は家に帰った。 この1日の幸せをジャスミンの香りの入浴剤で倍増させた。 私はお風呂から上がり、先にお風呂を済ませた八重樫君が横たわるベッドに入り、自ら八重樫君に抱きついた。 「あんまり可愛いことしないでくれる?」 「え?」 「今日の双葉可愛すぎて我慢できなくなるから」 「可愛い?」 「うん。いつも可愛いけど今日はいつにも増して可愛い。何か笑顔もいつもと違う」 「ありがとう。今日は思う存分楽しんだの。本当に蓮といると私は楽しいんだ。今まで甘えたかったけど、甘える勇気なくて、今まで我慢してたけど、今日はうーんと甘えてみたらもっともっと楽しかった。おばさんなのに変だよね」 「双葉はおばさんじゃないよ。変でもないし、これからももっと甘えていいよ」 「本当? でもキモい時はキモいって言ってね」 「はいはい。キモいって思ってる双葉がキモい」 「なにそれ」 「甘えるのに歳なんか関係ないよ。俺の母親なんて未だに親父相手にぶりっ子してるよ」 「可愛いお母さんだね」 「双葉って本当に良い子だな。でもこれ以上俺の決意を揺るがさないよう今日は寝てください」 「決意?」 「いいからほら早く寝て」 決意ってなんだろう。 キスもしてくれない八重樫君は何を一人で決意してしまったんだろう。 私にはもう残された時間は短いのかもしれない。 それから私は、八重樫君と楽しい日々を過ごすことだけに集中した。 だが彼から私にキスをする事はなかった。
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