第4話 突然の暴行

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第4話 突然の暴行

 深雪とシロは《グラン・シャリオ》の拠点を離れ、新宿の中心部に戻ることにした。一日を通して人通りが多く、新宿を縄張りしているゴーストチームも多いことから聞き込みに適しているのだ。  深雪とシロは手当たり次第にストリートのゴーストへ声をかけ、情報を収集していく。 「ちょっといいかな。君たちは何ていうチーム?」 「調べていることがあるんだ。君たちのチームに行方不明者がいないか教えて欲しいんだけど」 「……そのいなくなった子は男の子? 女の子? 年齢やいつ頃いなくなったか、できれば名前も教えてくれる?」 「行方不明になったのは三週間ほど前か。その子はネイティブ? それともイミグラ? その子がいなくなった原因に何か心当たりは?」 「……そっか。いろいろありがとう。あとこれで最後の質問なんだけど、《ブギーマン》って知ってる? ああいや……行方不明になった子と関係があるか分からないけど、ちょっと気になっているだけなんだ」 「あ、そこの君、ちょっと話を聞かせてほしいんだけど……」  聞き込みに選んだ時間帯と場所が良かったからか、声をかけたチームはおむね調査に協力的だった。中には迷惑そうに顔をしかめたり、乱暴な対応をするゴーストもいたが、アニムスを使って攻撃してくることまではしない。  深雪とシロはいくつものチームに声をかけ、片端から聞き取りをしていった。さすがにくたびれて、《ムーンバーガー》の二階で少し休憩することにする。 「うーん……さすがにちょっと疲れたな」  二人はテーブル席に座ると、一階で購入したポテトとドリンクを口に運びながらシロが言った。 「たくさんお話が聞けたね」 「そうだな、今まで集めた情報を少しまとめようか」  深雪が端末に打ち込んだ情報を整理していくと、おぼろげながら行方不明者の共通点が見えてきた。 「《グラン=シャリオ》を含めて15のチームに聞き取りをしたけど……判明した行方不明者は全部で23人か。だいたい1チーム当たり、1,5人の行方不明者を抱えてるってことか。チームによってメンバーの数が違うから何とも言えないけど、結構多い気がするな」 「その子たちは、どうしていなくなっちゃったんだろ?」 「理由も尋ねてみたけど、はっきりしないケースが多かったな。チームが嫌で抜ける子もいるとは思うけど……喧嘩をしたとかトラブルがあったというより、いつの間にかいなくなったってケースが多いのが気になる」  ちなみに全部で23人いる行方不明者のうち、男性は10人、女性は13人だった。男女の比率にはほとんど偏りがない一方で、年齢は八歳から十七歳くらいまでに集中している。二十歳以上の行方不明者も二人いるが、レアケースであるようだ。 「それと行方不明になった時期だけど、ほとんどがこの半年にいなくなってる。若年層になればなるほど、その傾向は顕著(けんちょ)だな」  深雪の指摘にシロは目を見開いた。 「半年? つい最近だね」 「あと行方不明になった子は、いわゆる現地民(ネイティブ)の子が19人、移住民(イミグラ)の子が4人……つまり行方不明になっているのは、十七歳以下でネイティブのゴーストが多いってことだ。男女比は今のところ半々。これだけの情報じゃまだ確定できないけど……」 「いなくなってるのはゴーストだけなの? 人間は?」 「うーん……そっちは調べてみないと分からないな。《監獄都市》は圧倒的にゴーストの人口が多いから、それも考慮しなくちゃいけないと思うけど……」  ただ、シロの疑問ももっともだ。行方不明者はゴーストだけなのか、それとも人間も同じように姿を消しているのか。その点も調べるべきだろう。 (それにしても……思ったより行方不明者が多いのが驚きだな。何も無ければそれが一番だけど、もし何かの事件が潜んでいるなら、絶対に放置しておけない。そのためにも今は情報(データ)が必要だ。明らかに異常だっていう情報が揃えば、きっと事務所を動かせるから)  《ムーンバーガー》の二階で三十分ほど休んでから深雪とシロは再び街中へ戻ることにした。 「これからどうするの、ユキ?」 「さっきの分析が正しいか確かめるためにも、もう少し情報を集めてみよう。とりあえず《ガロウズ》にも話を聞いておきたいかな。あと《ニーズヘッグ》のみんなも協力してくれるって言ってたから、情報を集めているかもしれない」  《ニーズヘッグ》という言葉を聞き、シロは目を輝かせる。 「亜希(あき)たちのところへ行くの?」 「ああ。ただ《ガロウズ》寄ってから《ニーズヘッグ》行くと時間がかかりすぎるから、手分けしよう」  深雪がそう提案すると、シロはシュビッと右手を上げる。 「シロ、《ニーズヘッグ》のほうに行く!」 「それじゃ俺は《ガロウズ》の奏太(そうた)に会って話を聞いてくるよ。終わったら事務所に戻るから、そこで合流しよう」 「分かった。それじゃ後でね!」 「あまり帰りが遅くならないようにな」 「はーい!」  シロは元気よく返事をするや否や、勢いよく駆け出していく。深雪は苦笑交じりにシロの背中を見送った。 (シロ、嬉しそうだな……《ニーズヘッグ》のみんなのことが本当に好きなんだな)  嬉しそうに走り去っていくシロの姿が四つ辻の向こうに消えるのを待ってから、深雪も目的地に向かって歩き出す。しかしその途中で、ふとある事に気づいた。 「……あれ? そういえば《ガロウズ》の拠点がどこにあるか聞いてなかったな。突然、押しかけても奏太だって困るだろうし、これから会えるかどうか連絡しておいたほうがいいな……」  聞き取り調査に夢中になるあまり、すっかり失念していた。深雪は奏太に連絡を取るため腕の端末を操作する。この間、連絡を取りあった時のアドレスがまだ残っているはずだ。  路地には人影もなく、しんと静まり返っている。深雪が端末の操作に集中していると、ふと何かの気配を感じたような気がした。  誰かにじっと見つめられているような、ひたひたと背後から忍び寄られるような――― (ん……?)  深雪は何げなく顔を上げ、後ろを振り返る。その瞬間、視界いっぱいに飛び込んできたのは、何者かが大きく金属バットを振りかざすところだった。 (な―――何が起こっているんだ!?)  あまりに突然のことに深雪はひどく混乱する。さっきまでこの路地には誰もいなかったはずなのに。それを理解する間もなく、何者かは躊躇(ちゅうちょ)なく金属バットを深雪に振り下ろす。 「……なっ!?」  自分が襲われているのだと気づいた時には、すでに手遅れだった。ガッという鈍い音とともに、側頭部に激しい衝撃が走る。  深雪はなす(すべ)もなく昏倒(こんとう)し、荒れ果てたアスファルトの上に体を叩きつけられる。そして意識が混濁(こんだく)すると、たちまち何も分からなくなってしまった。
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