【掌編】ゆめゆめ

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ゆめゆめ  気になることがあって図書館に行ってみた。  図書館の本たちは静かに棚に眠っている。  一冊抜き出してみる。少し埃っぽい。軽くはたくとぶるっと震えた気がした。 適当に開いたページには猫の挿絵があった。丸くなってすやすや眠る猫。  これがきっと核なんだ。  私は猫を挿絵からそっと抱え上げる。猫はもぞもぞして腕の中で再び寝息を立て始める。  起こさないようにゆっくりと出口へ向かう。気にも留めていなかったけれど、出入口にはセンサーがある。貸出手続きをしていない図書を持ち出すとブザーが鳴る仕組みだ。  私はどぎまぎしながらゲートをくぐった。  無事に通り抜ける事ができた。  一安心して図書館を出る。  気を抜いてしまっていた。猫は甲高い鳴き声と共に腕からするりと抜け出して、速きこと風の如くどこかへ去ってしまった。  がっかりして図書館を振り返ると、先程猫を取り出した本が飛び回っていて、司書たちが虫取り網を持って走り回っていた。  悪いことをしたなあと思いつつも、こちらも逃げられて傷心中なのだ。  せめてあの本だけでも借りていこうかな、と私は図書館へ戻ることにした
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