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インドラは解説を付け足す。
「今、宇宙船の外は艦底から出たラッパのようなバキューム装置がホールから出た熱を吸い込み、ペンローズ過程で熱と情報に分離されてます」
つまり、ひよこのお腹から掃除機が出てるってことか?
すかさずインドラに質問。
「どれくらいで吸い終わるの?」
「長居すればたちまちシュヴァルツ半径を越えてしまうので、約10分が関の山です」
「10分? 500光年まで来てそれだけしか居られないの?」
「相対性理論で明示しているとおり、重力の強いところでは時間の進みが遅くなります。たった10分でも地球では1週間か1ヶ月のウラシマ効果が発生します」
いや、何言ってる解かんないよ。
と言うと、ヒドく嫌われそうなので黙って聞くことにした。
「ホールを囲むエルゴ領域は有に1万度を越えるので、マクスウェル・デビルマシンを使います」
「は?」
しまった。本音がポロリした。
インドラは無視して話を進める。
「”熱”とは原子分子が震動し飛び回っている状態です。逆に”冷たい”とは原子分子が動かず大人しい状態です。もし悪魔がいて、その悪魔がイタズラで動く分子を動かない原子へ、動かない原子を飛び回る分子へ自在に移した場合、温度は永久的に持続します。簡単に言うと真夏のアイスクリームが永遠に溶けない現象を起こせるのです。これが
電磁気学の父、マクスウェルが提唱した”科学の悪魔”です」
「……へぇ〜」
これぞ無難な答え。
解らないけど一から相手に説明させるのは気が引けるから、とりあえず解ったような反応をする。
「デビルマシンは悪魔のイタズラを人工的に再現する装置です。これがあれば1万度の熱を利用し、冷房へ変換できます」
理屈は解らなくとも科学の恩恵がありがたいのは、痛いほど解る。
操舵室から近くで見る広大なホールは、波も風もない、平坦な海に思えた。
透明度も感じられない黒い表面は、飲み込まれてしまいそうで恐怖を感じる。
遊覧飛行を楽しんでいると、急に宇宙船が地震に見舞われたように揺れた。
「何!? 何ぃい!?」
「おそらく宇宙船が近づいたことで空間の質量が増えて、ホールの吸引する力が増し活発化したのでしょう」
「それ僕らのせいじゃん! 絶対ヤバイ状況でしょ!? 早く逃げよう!」
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