3 暗黒のマグマ

2/2
前へ
/9ページ
次へ
 インドラは解説を付け足す。 「今、宇宙船の外は艦底から出たラッパのようなバキューム装置がホールから出た熱を吸い込み、ペンローズ過程で熱と情報に分離されてます」  つまり、ひよこのお腹から掃除機が出てるってことか?  すかさずインドラに質問。 「どれくらいで吸い終わるの?」 「長居すればたちまちシュヴァルツ半径を越えてしまうので、約10分が関の山です」  「10分? 500光年まで来てそれだけしか居られないの?」 「相対性理論で明示しているとおり、重力の強いところでは時間の進みが遅くなります。たった10分でも地球では1週間か1ヶ月のウラシマ効果が発生します」  いや、何言ってる解かんないよ。  と言うと、ヒドく嫌われそうなので黙って聞くことにした。 「ホールを囲むエルゴ領域は有に1万度を越えるので、マクスウェル・デビルマシンを使います」 「は?」  しまった。本音がポロリした。  インドラは無視して話を進める。 「”熱”とは原子分子が震動し飛び回っている状態です。逆に”冷たい”とは原子分子が動かず大人しい状態です。もし悪魔がいて、その悪魔がイタズラで動く分子を動かない原子へ、動かない原子を飛び回る分子へ自在に移した場合、温度は永久的に持続します。簡単に言うと真夏のアイスクリームが永遠に溶けない現象を起こせるのです。これが 電磁気学の父、マクスウェルが提唱した”科学の悪魔”です」 「……へぇ〜」  これぞ無難な答え。  解らないけど一から相手に説明させるのは気が引けるから、とりあえず解ったような反応をする。 「デビルマシンは悪魔のイタズラを人工的に再現する装置です。これがあれば1万度の熱を利用し、冷房(クーラー)へ変換できます」  理屈は解らなくとも科学の恩恵がありがたいのは、痛いほど解る。  操舵室から近くで見る広大なホールは、波も風もない、平坦な海に思えた。  透明度も感じられない黒い表面は、飲み込まれてしまいそうで恐怖を感じる。  遊覧飛行を楽しんでいると、急に宇宙船が地震に見舞われたように揺れた。 「何!? 何ぃい!?」 「おそらく宇宙船が近づいたことで空間の質量が増えて、ホールの吸引する力が増し活発化したのでしょう」 「それ僕らのせいじゃん! 絶対ヤバイ状況でしょ!? 早く逃げよう!」
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加