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小学生の頃、休日に、何かの集まりで学校の体育館に行った。
みんな出入り口の側に靴を脱ぎ散らかしていて、帰り際、自分の靴がどこにあるのか、探さなければならない状態だった。
その大量の靴の中に、とてもおしゃれな靴があったんだ。
あの当時の小学生が履くとは思えない、綺麗でおしゃれな靴。
それを履いてみたい気持ちがこみ上げたけれど、さすがに人の靴を履くなんてダメだ。そう思っていたら、誰かが無造作にその靴に足を突っ込んだ。
隣のクラスの、ガキ大将的存在の奴。近づきたくないタイプなので、せいぜい顔と名前を知ってる程度の関係だけど、俺が知る限り、そいつはおしゃれな靴を履くような奴じゃなかった。
人の物だと知りながら、平気でそれを履き、奪い取るつもりなのだろう。
そう直感したが、その靴がそいつの物でないという確証はないので、何も言なないまま、俺はそいつがおしゃれな靴を履いて立ち去るのを見送った。
多分あいつの靴じゃない。だからあの靴の持ち主は、相当がっかりすることだろう。
どこの誰かも知らぬ持ち主に同情し、俺は自分の靴を探し出して家に帰った。
その翌日、あのガキ大将が登校してないと、隣のクラスの友達が話しているのを聞いた。
履き慣れない靴を履いて転び、怪我でもしただろうか。だとしたら、ばちが当たっていい気味だ。
そんな意地の悪いことを考えたけれど、その翌日もその翌日も、ガキ大将は学校に来ず、怪我や病気のせいではなく、どうやら行方不明らしいという噂が出回った頃、そいつが近くの公園で死んでいるという通報が警察に入った。
俺はもちろん死体を見たりはしてないけれど、公園の近くに住んでる同じ学校の児童が何人か死体を目撃していたようで、そいつが死んだことはたちまち学校中に広まった。
その話の中で、死体は裸足だったという証言が俺の意識を強く引いた。
裸足…もしやあいつの死は、あの靴と何か関係があるのではないだろうか。
そう思ったけれど、それを誰に話せばいいのか判らず、俺は自分の考えをそのまま心の底に押し込めた。
そんな記憶が遠いものとなってもう数十年。
今も地元で暮らしている俺は、地域の集まりで、久々に小学校の体育館を訪れた。
土足厳禁だったので靴を脱いで体育館に入ったのだが、いざ帰ろうとした時、出入り口付近は昔のように、好き勝手に脱がれた靴で埋まっていた。
その中に、かつて見た物と非常に話よく似た、おしゃれで綺麗な靴を見かけた。
ここいらの地方都市じゃ、こんなデザインの靴を履いている人などまず見ない。とはいえ、昔と違って、今ならこういった靴を入手することはたやすい。
いったいどんな人がこの靴の持ち主なんだろう。
興味深く靴を眺めていたら、同じ町内で暮らしているので顔は知っているか、名前まではよく知らない人が出てきて、その靴を履いて帰って行った。
こんなことを思うのは失礼かもしれないが、服装と靴がまるでちぐはぐた。あの野暮ったい服装の人があんなおしゃれな靴を履いているなんて、とてもじゃないが考えられない。
その考えに、小学生時代の記憶が甦った。
もしやあの人は、昔亡くなったガキ大将と同じことをしたのではないだろうか。
人の物と知りながら、靴に魅了されてそれを履いて帰った。もしこの想像が当たっていたら、この後あの人は…。
あの、おしゃれな靴を履いて帰った人が、そのまま行方不明になったと聞いたのはその数日後だった。
俺の予想では、多分あの人は、そう遠くない未来に、公園で遺体となって見つかるだろう。その時、多分足は裸足の筈だ。
見た瞬間目を奪われる、おしゃれで綺麗な靴。それが誰の物かも判らないけれど、この先どこかで見つけても、たとえちょっと履いてみたいという出来心でさえ、あれに足を通してはいけないんだろうな。
おしゃれな靴…完
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