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「だからさ、今からお茶して仲良くなりましょーよ、って事で」
「アレン」
そこでシオンが口を開いた。
「お前はサントライユの次期当主なんだ。忙しい身なんだ。こんなとこで遊んでる場合じゃないだろ。帰れ」
強い口調で言う。何だか怒ってるみたい。
「いいだろ、たまの息抜き……っておい、シオン!」
「帰れ」
シオンは強引にアレンを部屋の外に追い出した。
何だかぶつぶつ言ってたみたいだけど、アレンは結局引き上げたみたいだ。
部屋に戻ってきたシオンは私を無視して机に戻る。
椅子に座って、また仕事を始めた。
私はシオンの背後に並ぶ窓に近づいた。右端の窓から外の景色を眺める。
門の前に馬車が停まっていて、アレンがいた。
馬車が走っていく。
しばらく眺めた後、丸椅子に腰掛けた。
シオンの横顔を見つめる。
「あの人、頭いいわね」
シオンは何も答えない。
「婚約してるんだ。早く言えば良かったのに。そしたら私」
「婚約の話が出てるだけだ。その話だって――ずっと先の事になる」
「ふふ。嘘でもいいから婚約してるって言えばいいのに」
「――嘘は、つきたくない」
誠実なんだな、とこの時私はそう思った。
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