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「はうぁ!キスしたことない!書けぬ!!」 雄たけびをあげてノートから顔を上げ椅子から後ろにのけ反ったら、頭にタオルを巻いたカンナがいた。 「おねーちゃん、勝手に人の部屋入らないで」 「ごめんごめん」 「てか、キモ。ぶつぶつ言いながら机向かってるとかキモ過ぎ。テスト勉強するんだから、どいて」 「へーい」 残念そうに妹の部屋のデスクから退いた私は、 胸に抱いたノートを手に部屋を出た。 さぶいさぶいと廊下を進み階段を下りる。 妹・カンナは十八歳の高校三年生。 私は姉の佐久間ひまり、二十三歳の会社員。 性別が女子というのは一緒だが、 カンナには物心ついた時からいつも彼氏がいて、 私にはいたことがない。 確かにカンナは西洋人形みたいに可愛い。 正統派アイドルやってます!と言われても信じてしまうくらいだ。出るとこは出ているしオツムも良い。 それに比べて、姉の私は時間をかけてメイクしたつもりでも、いつもと変わらないじゃん、とカンナにも友達にも言われてしまう特徴の掴みづらいお顔らしい。そして、悔しいことにオツムもあまりできるとは言い難い。 得意なことは何か、と聞かれても、 幼稚園から習っていた書道の影響か、 字が綺麗だと言われることぐらいだ。 それでも大人になった今でも、 字を書くことは好きで、毎日、日記をつけている。 ことに今年の春に社会人となってからノートに つけ始めた日記はもう三冊目。 最初のページは入社式の日から始まり、 真ん中辺りは日々のランチや友達とのご飯やら 飲み、たまに仕事の愚痴が数ページに渡り 書かれている。 けれど、最近のページは 会社の先輩である柚木さんとの妄想でいっぱい。 片想いだけれど妄想の中では ラブラブなカップル設定だ。 思ったより楽しくて暇さえあれば書いてしまう 日々なのだけれど、如何せん、一人部屋が無い私は カンナのバスタイムに部屋を借りて書き連ねていた 訳である。
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