side A

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一階に降りると、リビングのこたつの両脇で三女のつばきがハイテンションで誰かと通話中、末っ子のあやめはスマホを手にニマニマしている。 「クリスマス?空いてる!どこ行く?」 「OK!クリスマスは皆でダブルデートだね♡」 どうやら二人とも交際中の彼氏と クリスマスデートの約束中らしい。頬が桃色だ。 私は呆れ顔でつばきの頭をノートで叩く。 「イッタ!何すんのよ」 「何すんのよ、じゃない。またこんなところでサボって。年明けから受験本番でしょ?勉強は?」 「今やろうと思ってたし!ごめん、しーくん、邪魔入ったからまた電話する。うん、つばきも大好きだよ。チュー♡」 と、つばきはスマホにキスして通話を切った。 「誰が邪魔モノだって?」 「怖っ!」 とつばきは悪びれもせず身を翻すと 階段を上がって行った。 全く、とため息が出た。 つばきは中三で受験生だ。 年明けすぐに控える高校受験ではなく、今は彼氏に夢中。暇さえあれば親の目を盗んでナンパで知り合った高校生の彼氏と遊んでばかりいる。 カンナもしかり。米国の大学に行きたいと目下、唯一苦手だった語学を猛勉強中なのに、夜食を持ってゆくと、高ニの時に短期留学でクラスに在籍していた時に知り合い、今は米国に住む同い年の米国人彼氏とこっそりビデオ通話してニマニマしている。 つばきもカンナも、共に集中して勉強する必要があると判断した父と母が二階にある二つの部屋を勉強部屋としてあてがったというのに、その幸せを享受せず、親がいないとすぐにサボる訳で。 「今度言いつけてやるから」 とは言え、アクの強い妹達相手に そんな勇気も出せない私は キッチンでココアを淹れ、こたつに入った。 さあ、続きを書こうっと。 ニマニマしながらノートを広げようとすると、 あやめがむくりと起きた。 慌ててノートを閉じた私に あやめはブスッとして言う。 「ひま姉さ、ちょっと外してよ。 今からここで長電話したいから」 「は?」 あやめは綺麗に手入れされた ピンク色の爪先をパチンと合わせて 可愛く小首を傾げた。 「今から幼馴染君とラブラブ通話するの。  一時間ぐらいどっか行ってて?」 「あんたね。ちょっと生意…」 「やかん沸騰してるよ」 ハッとして立ち上がる。 待てよ、やかんなんてかけてない。 向き直ると、いつの間にか ノートをあやめに見られている。 「何これ」 「わっ!待って返して!」 焦って取り返し、真っ赤になった私に 小悪魔末っ子は意地悪く笑う。 「では、ご退散願おうか」 私は肩を落とした。 「退散しますよっ。 だから、この事は誰にも言わないでっ」 あやめは満足そうに頷いた。
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