side A

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階段の下に行き、明かりを点けて一段目に座る。 ヒーターを目の前の床に置いて電源を入れる。 次第に増す熱に居場所を見つけた気がした。 だけど、再びシャーペンをノートに押し当てても 先輩とのキスの先は書けなかった。 「彼氏いないの、わたしだけじゃん」 言葉に出したら凹んできた。 柚木先輩は、クリスマスを誰と過ごすんだろう。 今年新卒で入社した私とは違う部署である柚木先輩は社内情報システム運営部の若きSE。男前で仕事が出来る。 理知的な顔立ちでサイドに流した髪を左の耳にかけている。どんな寝起きも二日酔いも、その姿を一目見れば目が覚めて恋に落ちてしまう罪な男がいると、入社一日目に先輩女子とのランチで聞いたその終業時。タイムカードを切る当の本人に私は見事に一目惚れしてしまった。 『お、おつかれ様です』 『おつかれ様です』 花粉症なのか鼻を啜りあげた先輩は、鼻を啜りあげただけなのに異様にキラキラして見えた。 それから仕事では必要な会話をする事もあったが、それ以外の会話をする機会は無いまま季節は過ぎ、遠くから女子社員達に囲まれている柚木先輩を見つめては、夜な夜な日記に妄想を書き連ねる日々を送っていた。 『柚木〜、今日は誘われてねぇ?大丈夫か?』 『柚木君、今日、女の子との予定は?』 『ねえよ、そんなもん。毎日聞くな』 昨日、帰ろうとしたらそんな会話を耳にした。 タイムカードの後ろにある喫煙スペースで煙草を吸っていた男女二人と柚木先輩が親しみやすさを浮かべた横顔を見せて笑っていた。 先輩は煙草は吸っていないけれど仲が良さそうだ。他の二人は知らない顔だ。同期の間柄なのかなと思いながら脇を通ろうとしたら、女の人が私を呼び止めた。 『ねえ、佐久間さん! もし良かったらこれから私達と飲みに行かない?』 そうして、十二月初めの金曜日の夜、私は三人の先輩と会社帰りの同期飲みに混ざることになった。
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