運命と奇跡が重ならなかった恋の話

2/14
前へ
/16ページ
次へ
出会ったころからきみは音楽でできていた。 きみの人生の色はそれで、私が惹かれたのも音楽が始まりだった。 『バンドマンは、素直な言葉を伝えられないから音楽をつくるんだって俺は思うんだよ』 口下手で、不器用で、言葉足らずなきみが精いっぱい紡ぐ言葉たち。 アコースティックギターの音色にのせて奏でられるそれに耳を澄ませれば、きみの歌声は簡単にわたしのこころの中に入り込んでくる。 歌詞はストレートにきみの想いをのせる。 わたしはきみの本音を全部、音楽から見つけ出していた。 きみの音楽が好きだった。 きみのことが、好きだった。 わたしがきみのことを好きになったのと、 きみがわたしを好きになったのは、 どっちが先だったんだろうね。 一度そういう話をしたときに、自信満々にきみは「俺のほうがずっと好きだった」って言ってくれたね。 その後にすぐ恥ずかしくなってそっぽを向いて、やっぱり聞かなかったことにしてくれなんて言うから、わたしはちっとも忘れられなかった。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

154人が本棚に入れています
本棚に追加