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「それで、奥さん、実家に行ったままか?」
友人の確認に直樹は、少し安堵の混じる表情で頷いた。
「ああ。俺たちが出ないと駄目だったから助かるけどな。
それで、向こうの弁護士から連絡来たか?」
愛香たちと再会した翌週の金曜日の夕方遅く、直樹は友人で弁護士の征也と会っていた。
さすがに、弁護士との打ち合わせに薫を同行させるのは無理だ。でも、一人にはできないから、今日は母親に来てもらった。申し訳ないが安心できる。
倫世は、誠之を愛香から略奪しようとして失敗した日から実家に行って、そのまま向こうで暮らしている。
誠之とのことをなかったことにして、実家に行くと言ってきた倫世に、彼は心から呆れたが、征也から別居を勧められていたので、好都合と思ったのも本当だ。
まだ、山口商事に勤めているので、実家には帰れない。さすがに遠すぎる。
でも、離婚前の協議の段階で余計な費用を掛けたくなかったから、仮の住まいを借りるのは気が進まなかった。なので、倫世が出ていくと言ってきて良かったわけだが、返したのは違う言葉だった。
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