第四章 思惑を秘めた接近

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 玲奈には秘密があった。  大学時代に、秘密に(から)んで(つら)い思いをした彼女は、男性との交際を諦める決断をしている。  その秘密をさっきの後輩が知れば、間違いなく安心して、玲奈に表面だけの(なぐさ)めを言うだろう。さらに同情を装って、社内中に言いふらすことも分かる。  玲奈は男性社員たちから注目されている。  彼らは、玲奈を社内一の美人と言っているらしい。なので、女性社員たちにとって、玲奈は目障(めざわ)りな存在になる。  悪意を持って噂を広げるだろう相手に、愛香(あいか)にさえ話していない秘密を明かすわけがない。  玲奈が真剣に仕事に打ち込むのは、一生一人と決めているからでもあった。独身で生きるなら、食べるために仕事は必要だ。
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