第四章 思惑を秘めた接近

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 =うん。伯父さんの会社も、そんなに余裕あるわけでないから良かったって。それに、その会社で営業やるんだって。営業の仕事好きだから喜んでた=  確かに、直樹は大学生の頃から営業を望んでいた。その時は海外で働きたいと言っていた……可能な会社に入ったのに、結局、その夢は(かな)わなかった。  愛香に対する仕打ちで怒っていたから考えもしなかったけど、直樹は倫世のせいで、恋人だけでなく夢まで失ったと気づいた。  油断というには重い代償だ。同情の気持ちが湧く。  「そっか。お祝いっていうのも微妙だけど、そのうち、みんなで食事でもしたいね。  再出発、頑張ってって感じで」  さりげなく誘った。  =うん。マンションも売れて、不動産会社の人に鍵を渡したら全部終わりなんだって。だから、その後、一緒に食事しようって話してるんだ。  ……妊娠、その時に言うつもりなの=  一緒にと言いかけたけど、玲奈は口を閉じた。元カノと単純に割り切れないはずの女性の妊娠を聞く……さすがに同席できない。  「そっか。びっくりするだろうけど、きっと喜んでくれるよ。  その次に食事する時にでも誘ってね」  =分かった。落ちついたら、今度は玲奈も一緒にね=
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