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「…ゆっくり、でいいよ」
「うん、」
「わたしがずっと、聴いててあげるから」
その言葉を受け取って、深呼吸をしてもう一度同じ音を指先がはじいた。
そのままじゃかじゃかと指が動いて、懐かしいイントロにわたしは思い出すように目を閉じた。
「これが、たぶん最後だから、聴いてて」
「うん、」
「最後は、きみのために歌うから」
ずっと聴いていた透明な歌声は、隣で聞くとさらに透き通っていて、いつもよりゆったりと弾かれる『逃避行』を、わたしはこれまでを思い出しながら聴いていた。
本当に、好きだった。
この音楽を聴くたびに、これからも思い出すのはあの人のことなのはきっと変わらない。
だからもう、聴かないんだ。
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