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眠れなくてとびだした自分のアパートはとっくにビルに覆われて見えなくなっていた。
歩道橋の階段を少し登れば東京タワーが遠くで光を灯している。
そのオレンジに照らされたくて階段全部登ってみても、ちっとも近づきはしなかった。
全部が近いはずなのに、全部遠く感じてしまう。
手を伸ばしても、簡単には届かなくて、帰りたい場所にも、もうなかなか帰れない。
都会は生きづらい。
けど、わたしはここで生きていかなければいけない。
イヤホンから流れるギターの音色と、透明で消えちゃいそうな歌声が、真夜中の道路の上で悲しさを増していた。
大きな道路の上の歩道橋は、地元のよりもずうっと長くて、広い。
真ん中で立ち止まって、イヤホンを切ってそのまま音楽を流した。
♪__
誰もいない、車もちっとも通らないそこでいくら大きな音を流しても、誰にも届かなくて、わたしは音楽に身を任せてただぼうっと遠くを眺めていた。
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