きみと 逃避行

4/14
150人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
眠れなくてとびだした自分のアパートはとっくにビルに覆われて見えなくなっていた。 歩道橋の階段を少し登れば東京タワーが遠くで光を灯している。 そのオレンジに照らされたくて階段全部登ってみても、ちっとも近づきはしなかった。 全部が近いはずなのに、全部遠く感じてしまう。 手を伸ばしても、簡単には届かなくて、帰りたい場所にも、もうなかなか帰れない。 都会は生きづらい。 けど、わたしはここで生きていかなければいけない。 イヤホンから流れるギターの音色と、透明で消えちゃいそうな歌声が、真夜中の道路の上で悲しさを増していた。 大きな道路の上の歩道橋は、地元のよりもずうっと長くて、広い。 真ん中で立ち止まって、イヤホンを切ってそのまま音楽を流した。 ♪__ 誰もいない、車もちっとも通らないそこでいくら大きな音を流しても、誰にも届かなくて、わたしは音楽に身を任せてただぼうっと遠くを眺めていた。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!