きみと 逃避行

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「モノクロ」 背後から聞こえたその声に思わず振り向いた。 ギターケースを背負った見たことある顔が、わたしを見下ろしていた。 「…え、?」 戸惑いを隠せず、絡まった視線から抜け出せずにいたら、そんな私を笑って隣に並んだ。 「 灯りのない道を ぼくは一人で歩いていた 」 スマートフォンから流れる音楽と、その言葉が重なる。 機械越しに聴くよりもずっと柔らかい歌声が、ふわり、耳元を掠めてまっすぐにおっこちた。 片手に収まっていたスマートフォンは驚いて力が抜けたまま手をすり抜ける。 それをとっさにキャッチした大きな手のひらが、音楽を止めた。 「…きみにも、似合うね」 モノクロ、 そうつぶやいて私にスマートフォンを渡して通り過ぎようとした腕を想わず掴んだ。 「あなたの世界は、まだモノクロ?」 勢いで振り返った顔が驚きを表していて、思わずつかんだ腕を手放した。 「…どうおもう?」
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